JANIS検査部門 データ解析の特徴と有効活用
(Vol. 32 p. 6-7: 2011年1月号)

厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)検査部門におけるデータ解析の特徴
検査部門はサーベイランスのための専用データを改めて収集することなく、日常行われている感染症診療のために検体採取が行われ、細菌検査室で検査された培養結果および薬剤感受性検査結果を用いたサーベイランスである。参加医療機関はJANIS提出用フォーマットにデータを変換するシステムを準備する必要はあるものの、データ収集のための労力は少ない。一方でJANIS提出用フォーマットに統一されているとはいえ、細菌検査体制の異なる様々な医療機関より提出された生データをもとに薬剤耐性菌などの分離状況を算出するためには参加医療機関側の検査方法の違い等を考慮する必要がある。

菌の薬剤感受性試験には様々な方法があるが、わが国の多くの医療機関では微量液体希釈法により菌の最小発育阻止濃度(MIC)値を測定しており、この値をもとに各抗菌薬に対して、感性(S)、中等度耐性(I)、耐性(R)の判定をしている。抗菌薬の薬剤感受性に関する代表的な判定基準として米国のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)が定めたものがあるが、日本化学療法学会の作成した基準を用いている医療機関もある。そのため、JANIS検査部門では菌の薬剤感受性は、医療機関側の判定ではなく、提出されたMIC値のデータを2007年のCLSIの基準1) に準拠して再判定したうえで集計している。ただし、バンコマイシン耐性腸球菌など、感染症法に基づく届出にその判定基準が定められているものについては感染症法の判定基準を用いている。

なお、多くの医療機関では、SとRの規定値となる濃度2点のみを計測するなど、測定する薬剤濃度を制限していることが多く、正確なMIC値は不明なことが多いため、検査部門ではMIC値だけではなく、「仕切法」のデータも収集している。「仕切法」とは、等号と不等号の組み合わせにより、1:<(MIC値より小)、2:>(MIC値より大)、3:<=(MIC値より小さいまたは等しい)、4:>=(MIC値より大きいまたは等しい)の4種類を設定したもので、これとMIC値を組み合わせることで限られた測定濃度でもS、I、Rが判定できる。

さらに、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌など、選択培地を用いた薬剤耐性菌の判定がすでに確立・普及しているものについては前述の方法で集計・解析ができないため、報告用の菌名コードを特別に設定することによって集計している。薬剤含有ディスクを用い感受性を判定するディスク法の場合も、同様にMIC値が得られないため判定ができないが、現在それらの結果は集計されず、全体集計に反映していない。

その他にも、同一患者より分離された菌株の重複処理など、サーベイランスのために収集されたデータを扱う他の部門に比べ、検査部門のデータ集計・解析方法には多数かつ複雑な処理規則が含まれている。菌名や薬剤耐性菌の検査方法については常に臨床現場に導入・普及しているものを追加しているため、それらの変更に伴って集計・解析の処理規則に齟齬が生じないよう、緻密な確認作業が行われている。

検査部門データの活用
JANIS検査部門の特徴は、菌が分離された検体だけでなく、培養陰性であった検体を含むすべての細菌培養検査データを収集している点である。従って、分離菌の解析のみならず、わが国の医療機関における細菌培養検査の検体採取状況なども知ることができる。医療機関における培養検査の検体採取状況は感染症診療や院内感染対策の特徴を反映することもあるといわれており、今後公開情報や還元情報に、より詳細な解析結果を含めることも検討されている。

また、現在集計の対象としている菌種以外のデータも蓄積されているため、新たなシステムを構築しなくても必要に応じて様々な菌の分離状況を集計・解析することができる。たとえば、リステリアは新生児や高齢者の髄膜炎、敗血症などの重篤な感染症を引き起こすが、わが国におけるリステリアの分離状況に関しては限られたデータしか存在しない。そこで、検査部門の2007年7月〜2008年6月のデータを解析すると、Listeria monocytogenes またはListeria 属は年間58名から分離されたことが明らかになった。また、収集するデータには年齢や性別が含まれることから、図1に示すように60歳以上が34名(58.6%)と、高齢者が全体に占める割合が高いといったわが国のリステリア症の基本的な疫学情報も作成することができる。

現在、JANIS検査部門のデータは入院患者における薬剤耐性菌の分離状況に焦点を絞った解析を行っているが、実際は外来患者の細菌検査データも収集されているため、市中感染症の病原菌など、様々な病原細菌の感染症対策の立案に寄与できる可能性があり、この貴重なデータベースの有効な活用方法について今後検討を進める必要があろう。

 参考文献
1) Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; Seventeenth Informational Supplement, M100-S17

国立感染症研究所細菌第二部(JANIS事務局)
山根一和 鈴木里和 筒井敦子 山岸拓也 荒川宜親

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