茨城県における避難所感染症サーベイランス
(Vol. 32 p. S10: 2011年別冊)

2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災における茨城県の主な被害状況(8月26日現在)は、人的被害として死亡者が24名、重症者が33名、行方不明者が1名であった。住宅被害は全壊棟が2,696件、半壊棟が18,815件、一部損壊が153,041件、床上浸水が1,588件、床下浸水が733件であった。住民の避難状況は、3月12日8時の時点で、避難所594カ所(40市町村)、避難者77,285人とピークに達したが、その後は減少していった。

茨城県では、3月21日より避難所感染症サーベイランスを開始した。症状の分類は(1)下痢、血便、嘔吐など(急性胃腸炎など)、(2)咳、咽頭痛、上気道炎・下気道炎など(急性呼吸器感染症など)、(3)発熱を伴う急性発疹・粘膜の症状など(麻しんなど)、(4)意識障害、痙攣、開口障害などの急性神経・筋症候群(破傷風、髄膜炎など)、(5)皮膚および軟部組織感染症(創傷関連感染症、疥癬など)、(6)急性黄疸症候群(肝炎、レプトスピラ症など)、(7)上記の分類不能な重症例とした。また、基本的報告事項として、施設名、避難者数、発生時期、症状、人数、年齢、重症者、死亡者、現場より必要と思われる公衆衛生・医療上の支援等について、県内すべての避難所から毎日報告を受けた(図1図2)。

避難所感染症サーベイランス開始から2週間は呼吸器感染症患者が継続的に発生した。

インフルエンザ様疾患、急性下痢症は散発的に発生したが、集団発生には至らなかった。創傷関連感染症、麻しんおよび破傷風の発生はなかった。その他の感染症は、3月30日〜4月2日まで報告が数人あったが、これらはすべて気管支炎であった。4月7日の急性呼吸器感染症の1人を最後に、発生報告はなかった。

避難所感染症サーベイランスの評価については、国立感染症研究所感染症情報センターから週1回還元された。還元情報の中には、近隣自治体のインフルエンザ等の流行状況の情報も含まれていた。還元情報は、5月15日まで県庁から保健所、市町村、医師会等の関係機関に配信し、情報を共有した。

避難所感染症サーベイランスを実施した結果、感染症の発生状況をリアルタイムに探知できた。また、避難所感染症サーベイランスの情報を市町村、保健所、医師会等に還元したことにより共通認識した上で早期に介入することができた。

今後は、避難所感染症対策およびサーベイランスの充実、感染症を含めた健康相談票や避難所管理者のための避難所運営管理チェックリストの見直し、災害時に備えた感染症予防対策用品の備蓄・管理、そして災害時における市町村、関係機関等との協力体制の強化等を課題として、茨城県保健福祉部災害対策マニュアルの中に盛り込んでいく予定である。

茨城県保健予防課 入江ふじこ 小沼弘美
国立感染症研究所感染症情報センター 砂川富正 神谷 元 八幡裕一郎

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