避難所感染症サーベイランスシステムを用いた感染症発生状況の把握と対策−郡山市
(Vol. 32 p. S8: 2011年別冊)

国立感染症研究所感染症情報センター(感染研情報センター)が開発した「避難所感染症サーベイランスシステム」を用いて、郡山市内避難所における感染症の発生状況を把握し、対策を実施した。

本市保健所でシステムの利用を開始したのは4月16日である。利用開始時の避難所数は24カ所、避難者数は約4,000人であったが、時間の経過とともに徐々に減少した。利用開始から8月上旬までの期間の発生状況を症候群別に記載する。急性嘔吐下痢症は、大規模避難所で4月中旬にノロウイルスによる感染性胃腸炎の集団発生があった(本号S8ページ参照)が、それ以降は全避難所で最大でも1施設1日当たり4名の報告であった。感染性胃腸炎の集団発生を機に、避難所の食中毒防止対策を徹底したため、食中毒の発生はなかった。本市におけるインフルエンザの小流行は4月中旬〜6月末まで続いたが、避難所におけるインフルエンザの発生は、7人が散発的に報告されたのみであり、早期対応により感染拡大には至らなかった。呼吸器感染症は、疾患群中で最も多く報告例があった。年齢層は高齢者に偏り、病原体も多様と考えられた。症状が長引く場合には医療機関受診を勧めた。首都圏で流行が見られた麻疹の発生報告はなかったが、他避難所で診断後、本市内避難所に入所した水痘患者が1例報告された。水痘例は一晩、避難所で感染防止の対応をしたのち医療機関に入院したため、感染拡大はなかった。岩手、宮城県等で報告のあった津波の被災によるレジオネラ症、震災当日の受傷による破傷風については本市での発生報告はなかった。

本市における「避難所感染症サーベイランス」は、保健所がウェブサイトに感染症を疑う症候群の発生例を入力し、発生状況を監視するとともに、感染研情報センターが入力データをまとめ専門家のコメントをつけて還元、注意を喚起するシステムであり、避難所の感染症対策を実施する上で有効なシステムであった

郡山市保健所 阿部孝一

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