東日本大震災における福島県の感染症対策と避難所サーベイランス
(Vol. 32 p. S6-S7: 2011年別冊)

1.はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、福島県では浜通りを中心に広範囲に地震・津波の被害を受けた上に、東京電力福島第一原子力発電所で発生した放射能漏れ事故(以下、放射能汚染)によって、実際の震災被害をはるかに上回る規模の住民(最大で10万人以上)が居住地を遠く離れ、県内外で避難生活を送ることを余儀なくされた。また、被災市町村の役場機能も県内外に移転する等、重大な影響が今も続いている。福島県では、県内の各避難所に対する感染症対策を実行するとともに、一部の地域においては国立感染症研究所感染症情報センター(感染研情報センター)が開発した避難所感染症サーベイランスシステムの導入を図った。以下に震災後の感染症発生状況とその対策、および避難所サーベイランスについて記述する。

2.震災後の福島県内における感染症発生状況の概要と感染症対策について
福島県では、地震・津波の被害に加えて放射能汚染のため大勢の避難者が県内外に避難し、県内だけでも一次避難所は最大で 500カ所余りとなった。このうち、類似の感染症症候を呈する症例が10例以上把握された避難所は、7月10日現在、11カ所となっており、症候群の内訳は急性嘔吐下痢症7カ所、インフルエンザ様疾患2カ所、急性呼吸器感染症2カ所であった。その他、明らかな集団食中毒発生が1カ所であった。

本庁感染症担当としては、災害発生から1週間後に消毒薬やマスク等資材を配布するとともに、感染症予防に関する注意事項を記したパンフレット(避難者および施設管理者向けの二通り)の作成・配布、県ホームページや各避難所に提示する壁新聞等で注意喚起を行った。また、健康に関する24時間体制の相談窓口を主な避難所に設置した。予防接種の対象者・接種時期・避難先における接種方法や、食品の保存、調理時の留意事項についても啓発した。

避難所を巡回する医療チームや健康管理チームには常に感染症発生を念頭に置いて巡回すること、感染症(疑いを含む)の発生を察知した場合には、症例定義を策定し、その定義に合致する発症者の推移を把握するとともに、診断・医療の確保および感染拡大防止の指導に努め、必要に応じて有症状者の個室対応も考慮するよう協力を依頼した。

施設管理者や入所者の住居地の役場に対しては、生活環境の改善(毎日の施設内清掃、水場の確保、換気改善、衣食住分離等)を指導した。

3.避難所サーベイランスについて
2011年4月7日、福島県保健福祉部は、感染研情報センターから、避難所での感染症の発生動向を早期に探知し、迅速に対応することを目的として同センターが開発した避難所における症候群サーベイランスである「避難所感染症サーベイランスシステム」導入の提案を受けた。県内の保健所に同システムの導入について呼びかけを行ったが、福島県では、地震・津波の被害に加えて放射能汚染による対応に追われていたこと、放射能汚染の拡大に応じて避難場所を次々に移動する必要があったこと、避難場所が居住市町村を越えた遠隔の県内外の地域となって、避難所の管理運営体制に複雑な状況も生じたことから、避難所感染症サーベイランスシステムの全県的導入は困難と判断し、それぞれの保健所の判断に委ねた。その結果、同システムの導入は県南保健所(本号S7ページ)、郡山市保健所(本号S8ページ)、いわき市保健所(本号S8ページ)の3保健所に留まり、後に相双保健所管内の一部の避難所(南相馬市内)が加わった。同システムのデータ入力は、各避難所から情報を入手した保健所が一括して行い、入力された避難所の情報は参加保健所からの要請により、管轄外のものも含めて保健所からの閲覧を可能とした。感染研情報センターは毎日入力データの確認を行い、保健所側、感染研情報センター双方で感染症発生に関する監視が行われた。また、同センターからは、保健所ごとに観察期間中の感染症の国内情報、各症候群の推移と現状のまとめ、実施すべき対策や提言等を盛り込んだ評価ファイルが定期的(毎週あるいは隔週)に作成され、県庁および参加保健所に送付された。

避難所感染症サーベイランスが導入された保健所管内では、感染症集団発生の早期かつ詳細な把握と迅速な対応に効果的であったと思われる。

福島県保健福祉部健康衛生総室 長澤脩一
福島県保健福祉部感染・看護室 菊地とも子 橋本恵子 後藤 隆

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