横浜市における麻しん検査診断体制の実施状況
(Vol. 31 p. 329-331: 2010年11月号)

横浜市では、主治医が麻しんを疑った場合は、速やかに「麻しん発生届」および「麻しん(はしか)連絡票」(注:内容は、患者の氏名・住所・所属施設等の個人情報、連絡票を福祉保健センターへ提出することへの本人または保護者の同意の有無)を提出するとともに、可能な限り全例に、市衛生研究所におけるPCR検査を実施している(図1)。医療機関への専用培地・綿棒・検査依頼書の送付や、医療機関からの検体の受け取り、衛生研究所への検体の搬入については、2009年の新型インフルエンザ対応で活用した民間バイク便を利用している。

2010年4〜9月に市内医療機関から発生届が出された37例について、その状況を報告する。

37例のうち29例にPCR検査を実施できた。そのうち、19例は咽頭ぬぐい液・血液・尿の3検体とも採取されている。残りは、咽頭ぬぐい液のみが2例、咽頭ぬぐい液と尿が4例、咽頭ぬぐい液と血液が3例、抗体検査に使用した血液の残り(検体は採取できなかったため、参考検体として確保)が1例であった。

37例すべてに発生届と連絡票に基づき、周囲の予防接種歴の調査や健康観察等啓発も含めた感染拡大防止措置を実施したが、23例は主治医が総合的に判断して発生届を取り下げた。

4月の時点では、抗体検査の結果を待って発生届が提出されているケースも多く、探知が遅くなり、その時点でのPCR用検体の採取は困難であった。しかしながら、取り下げとなったケースにおいても、学校・保育園等での詳細な予防接種歴調査を通して未接種者への勧奨を行ったり、発生時の対応や教育委員会との連携を検証するなどの効果があった。

5月は、正式な依頼前であったが、PCR検査への医療機関や保護者の協力が得られるケースがほとんどであった。ただ、発疹出現から検体採取までの日数が長く、PCRが陰性であっても、麻しんの可能性を完全には否定できなかった。

検査診断体制について医療機関に依頼した6月以降は、医療機関から保健所への連絡も迅速かつスムーズになり、発疹出現日を0日とすると、0〜2日目の最適な時期に検体を採取できているケースが過半数を占めていた。

最終的に麻しんとしての報告をあげている14例についてまとめる(表1)。発熱・発疹はすべて見られているが、カタル症状の見られないケースがあり、発熱が二峰性の経過をとるケースは少なかった。発疹については、融合性や色素沈着ありのケースが多い。

抗体検査は、IgM値が1〜2と軽度の陽性が多かった。14例以外で、5.2、4.47、3.38など、かなり高めのIgM値を示したものがあったが、臨床症状の精査、流行状況等から、他のウイルス感染症による交差反応と考えて、取り下げられている。

症例8は診断困難例で、最終的に麻しんを否定できなかったケースである。患者は、歩行困難で救急車で受診し入院、発熱40℃と、当初はかなり重症感があった。症状は、発熱、咳、鼻汁、結膜充血、眼脂、コプリック斑、発疹と、麻しんに典型的なものが多く見られている。発疹出現10日目の検体でPCR検査を実施したが、咽頭ぬぐい液、末梢血単核球、血漿、尿とも陰性だった。抗体検査は、発疹出現日にIgMとIgGを、その約5週間後にIgGを調べており、IgM値は0.39と陰性、IgG値は24.5から68.5と3倍近い上昇をみた。国立感染症研究所感染症情報センター多屋第3室長のアドバイスで、PCR検査に使用した血漿の残り(発疹出現10日目に採取)について、市衛生研究所でIgM検査を実施し、0.128と陰性だったため、麻しんの可能性は低いと考えた。このため、4期のMRワクチンについては、接種を勧めた。症例14は別途報告している輸入例である(本号17ページ参照)。

横浜市では今年度から、PCRによる麻しんの全数検査体制をとっている。4月以降麻しんとして届出られた37例について検討したが、輸入例を除き、発生前後における疫学的リンクが全く認められず、PCR検査においても陰性であった。このことから、疫学的リンクを欠く場合には、臨床症状とIgM 値からの診断には慎重さが求められ、PCR検査等の実施が望ましいと考える。

横浜市健康福祉局健康安全課
岩田眞美 紺野美貴 椎葉桂子 市川英毅 修理 淳
横浜市衛生研究所
七種美和子 宇宿秀三 池淵 守 高野つる代 蔵田英志
横浜市保健所 高橋秀明 豊澤隆弘

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