中華料理店で認められたサポウイルスによる食中毒事例―川崎市
(Vol. 31 p. 323-324: 2010年11月号)

2010年4月、川崎市内においてサポウイルス(SaV)を原因とする食中毒が認められたので、本事例の概要と調査結果を報告する。

事例の概要
原因食品を提供したと疑われる中華料理店(施設K)における3月28日の利用者473人のうち43人中33人(5グループから成る)の有症者が報告された。時系列に患者発生状況を追跡したところ、3月29日から始まった患者発生は、30日の午後をピークとして4月4日の午後まで続いた(図1)。喫食後から発症までの時間を調べたところ、喫食後12〜24時間と60〜72時間に二峰性のピークを示した(図2)。原因食品に関しては、特定することができなかった。本事例における患者33人の症状を表1にまとめた。下痢、吐き気を主症状として発熱と腹痛が約半数に認められた。

施設Kにおける10名の調理従事者のうち体調不良を訴えた調理従事者はいなかった。客用トイレと従業員トイレは区別されており、トイレにおける嘔吐は無かった。また、施設Kが入っているビル内の他の飲食店で発症者は確認されなかった。

検査結果
有症者33人中30人の患者便について細菌学的検査、コンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法によるノロウイルス(NoV)検査、イムノクロマト法によるロタウイルスとアデノウイルスの検査を実施したが、原因物質は特定できなかった。ウイルス性下痢症診断マニュアル(第3版)に記載されたSaV遺伝子増幅用プライマー(SV-F11とSV-R1およびSV-F2とSV-R2)を用いたSaVコンベンショナルPCR法でSaV遺伝子の検出を行ったところ、患者便29検体中27検体からSaV遺伝子が検出された。また、施設Kの調理従事者10人において同様の検査を行ったところ、事件当日の調理従事者7人中5人から、また当日調理に従事していなかった3人中2人の便からSaV遺伝子が検出された。

患者と調理従事者の糞便中から検出されたSaV株の関連性を調査するために、SaV遺伝子増幅断片の塩基配列をダイレクトシークエンス法で決定し、比較したところ、患者便と調理従事者から検出されたSaVの塩基配列は構造蛋白コード領域において100%の相同性を有していた。さらに、分子系統樹解析の結果、本事例で検出されたSaV株はGI/2型であった。

施設Kから調理従事者の糞便中SaVの陰性確認試験の依頼があったため、引き続き調理従事者糞便のSaV検査を施行した。SaVは4月3日、9日、19日の検査で確認された(表2)。

考 察
患者の発生状況から、本事例は施設Kの提供した食事による食中毒であると考えられた。SaVは主に乳幼児において感染性胃腸炎として流行を起こすことが知られており、成人の糞便から検出されることは稀であると考えられていたが、本事例においてSaVが検出された患者はいずれも成人であった。SaVが検出された調理従事者は下痢等の胃腸炎症状は認められず、いずれも不顕性感染者であった。また、調理従事者の糞便の経時的検査結果から、SaVが少なくとも6日以上検出された。これらのことから、不顕性感染によりSaVを保有している調理従事者が、SaVの感染源になり得ると考えられた。NoVでは同様の事例がすでに報告されていることから、今後、SaVにおいても不顕性感染者からの感染について考慮する必要があると思われる。

川崎市衛生研究所ウイルス・衛生動物検査担当
飯高順子 松島勇紀 加納敦子 石丸陽子 清水英明

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