中国からのH1型麻疹ウイルス輸入症例―札幌市
(Vol. 31 p. 203: 2010年7月号)

2010年5月、札幌市内の医療機関で麻疹と診断された患者からH1型麻疹ウイルスを検出したので報告する。

患者は中国籍の女性(20代、北京在住)で、5月1日に観光目的で来札し、知人宅に滞在していた。5月6日朝から頭痛、夕方に発熱を呈し、7日に咳、8日に発疹が出現した。さらに10日には、コプリック斑、結膜充血および鼻汁が認められ、市内の医療機関において臨床症状より麻疹と診断された。なお、患者のワクチン接種歴は不明であった。

5月13日に採取された患者の咽頭ぬぐい液、末梢血単核球および尿を用いてRT-nested PCR法による麻疹ウイルス遺伝子の検出を試みた。その結果、すべての検体で麻疹ウイルスのHおよびN遺伝子が増幅された。増幅されたN遺伝子の部分塩基配列はすべて一致し、系統樹解析によりH1型麻疹ウイルスと同定された(図1)。GenBankに登録されている株との相同性検索では、N遺伝子472塩基について、上海で分離されたMVi/Shanghai.PRC/22.06/11(DQ902857)と100%の相同性を示した。また、レファレンスセンターである北海道立衛生研究所にて実施しているウイルス分離では末梢血単核球と尿から麻疹ウイルスが分離されており、抗体検査では麻疹IgM>14.03と強陽性を示した。

今回の患者は海外からの輸入症例と考えられた。届出後、患者の行動調査を実施したうえで、感染機会があったと推定される対象者への注意喚起・健康状況確認を行った結果、6月22日現在、本症例からの二次感染例は確認されていない。今後、本邦における麻疹発生数の低下にともない、輸入症例への注意が必要になると同時に、麻疹ウイルスの分子疫学がさらに重要になると思われる。

札幌市衛生研究所
菊地正幸 村椿絵美 扇谷陽子 伊藤はるみ 高橋広夫 三觜 雄
北海道立衛生研究所
長野秀樹 駒込理佳 三好正浩 岡野素彦

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