保育施設で発生した腸管出血性大腸菌O26の集団感染事例―愛媛県
(Vol. 31 p. 164-165: 2010年6月号)

2009年5〜6月、愛媛県東部の保育施設において腸管出血性大腸菌O26:H11(VT1産生)(以下、O26とする)による集団感染事例(感染者46名、うち園児28名、施設職員3名、家族15名)が発生したので、その概要を報告する。

経緯:2009年5月28日、医療機関から管轄保健所に、EHEC O26感染症患者発生の届出があった。患者は3歳男児で、同月23日から胃腸炎症状を呈し、25日に医療機関を受診、検査の結果O26が検出された。直ちに保健所が疫学調査を開始したところ、患者が通う保育施設(園児37名、職員10名)において5月16日から調査時点までに全園児の約70%が胃腸炎症状を呈していたことが判明した。そこで当該施設におけるO26集団感染を疑い、感染拡大防止対策の指導を行うとともに、5月29日に施設関係者45名(園児35名、職員10名)、6月1日に家族等接触者84名の検便検査を行ったところ、41名[園児23名、施設職員3名、家族15名(12家族)]からO26を検出した。また、6月1日には医療機関において検査中であった園児1名の届出があった。

その後、5月29日の検便検査では病原体が検出されなかった園児3名が胃腸炎症状を呈し、医療機関から新たな届出がなされた(6月5日2名、6月8日1名)。この園児3名については家族からO26が検出されていなかったことから、家庭内の感染ではなく、保育施設内での感染が示唆された。そこで、当該施設は6月10日〜12日の3日間、自主休園し、専門業者による施設内消毒を実施、さらに保護者会を開催して家庭内での感染予防対策について指導を行った。また、医療機関側には感染者への抗菌薬の投与を要請し、感染者46名のうち妊婦1名を除く45名に抗菌薬が投与された。その後新たな感染者は発生せず、6月26日には感染者の陰性確認が終了して終息を迎えた(図1)。

疫学調査:患者の中には給食を利用していない授乳中心の乳児にも有症者が発生していること、発症日が5月23日に偏っているものの、その1週間程度前に有症者が発生していることから、給食および飲料水を介した集団感染は否定した。当該施設はバリアフリー化された施設であり、トイレと教室の境界が不明瞭であったことなどから、施設内に持ち込まれたO26が園児のおもちゃ、吊りタオル、オムツ交換等を介して、施設内で汚染が拡大し、感染者が増加した可能性が考えられた。

患者症状:患者27名中情報が得られた18名の症状は、水様性下痢(67%)が最も多く、次いで軟便(50%)、血便(22%)、腹痛(17%)、発熱(17%)であった。なお、溶血性尿毒症症候群や脳症を発症した事例はなかった。

病原体検査:本事例で分離された46株について、衛生環境研究所において分子疫学的解析を行った。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析では7パターンに分けられたものの、すべて3バンド以内の違いであり、同一由来株と考えられた。薬剤感受性試験ではFOM耐性が3株、ABPC耐性が3株で、その他はすべて感受性であった。FOM耐性を示した3株は同一家族から分離されており、PFGEパターンは同一であった。ABPCに耐性を示した3株のPFGEパターンは2種類に分類された(表1)。また、一度陰性確認後、病原体が検出された3株はすべての薬剤に対して感受性であった。

考察:O26はO157に比べ、症状が比較的軽症であることが知られている。今回の事例においても有症者の症状は軽症であったこと、また、乳幼児期には下痢症状を起こしやすいことから、当初、保育施設、保護者、医療機関ともに危機意識が希薄であり、その結果、事例探知が遅れ、施設内感染が拡大する結果となったと推定された。感染拡大の要因の一つとして、バリアフリートイレの存在が挙げられる。当該施設はトイレトレーニングをスムーズに行えるよう、間仕切りの無いトイレを設置し、園児が自由に行き来できる構造であった。本来、トイレは汚染区域であり、清潔区域である教室とは明確に区別すべきであると思われる。職員はバリアフリー化によって感染症伝播のバリアも低下していることを認識し、有症者が発生した場合には感染症対策のレベルを引き上げた保育を行う等、独自の衛生管理マニュアルを整備し、実践することが重要と考えられた。

愛媛県立衛生環境研究所
浅野由紀子 烏谷竜哉 田中 博 土井光徳
愛媛県西条保健所
星田ゆかり 秋山友紀 西原正一郎 佐伯裕子 川口利花 山本 公 奥山正明 武方誠二 竹之内直人
 (平成21年度所属による)

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