千葉県におけるインフルエンザ菌全身感染症の現況とHibワクチン接種状況
(Vol. 31 p. 101-102: 2010年4月号)

はじめに
2008年12月にインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンが、日本においてもようやく接種可能となった。Hibワクチン導入にあたり、千葉県における導入前後のインフルエンザ菌による髄膜炎および全身感染症の疾病動態と分離菌の血清型を検討し評価することは、ワクチン効果の正確な判定、定期接種化を含めた今後のワクチン行政にも重要であると考え、本調査を実施した。

調査方法
千葉県内で小児の入院施設を有する施設を対象に、2007年1月〜2009年12月の3年間に診断した血液、髄液などの無菌部位からインフルエンザ菌が分離された全身感染症症例の症例数、診断名等について、前方視的な報告書と半年ごとに実施した後方視的なアンケート調査をもとに集計した。分離されたインフルエンザ菌の血清型については、各病院検査室での検討結果、ならびに、国立感染症研究所へ菌株を送付し、検討した結果をもとに集計した。Hibワクチン接種率に関しては、2008年12月19日発売以降、千葉県内医療機関へ配布された年齢別Hibワクチン数をもとに、推計を行った。なお、2009年4月1日現在、千葉県の総人口は6,239,145人、5歳未満人口は268,011人である。

調査結果
1.調査回収率:調査回収率(報告書ないしはアンケート調査により、症例の有無の報告が得られた施設/千葉県内小児・新生児入院可能施設)は、2007年92%(52施設/56施設)、2008年88%(49施設/56施設)、2009年76%(44/58施設)であった。

2.インフルエンザ菌全身感染症症例数と診断名表1):千葉県在住者でインフルエンザ菌全身感染症により入院した症例の年次別罹患数、罹患率を示す。症例数は2007年19例、2008年38例、2009年32例、合計89例であった。千葉県5歳未満10万人当たりの罹患率は7.1、14.2、11.9と推移していた。疾患別では髄膜炎が52例と最も多く、全体の58%を占めていた。年次別にみると、髄膜炎症例数は、2007年11例、2008年23例、2009年18例となっていた。罹患年齢の明らかな86例の年齢分布を示す(図1)。0歳児が31例、1歳児が32例と最も多く、2歳未満の症例が全体の73%を占めていた。また、基礎疾患を有する者は、全体の13%(11例/86例)にすぎなかった。なお、2009年は、死亡例は認めなかったが、髄膜炎の2例が、後遺症として難聴を残していた。

3.血清型:血清型はインフルエンザ菌株のうち、76例で実施されており、1例を除き、Hib(99%)であった。

4.Hibワクチン接種率:症例ごと配布数から推計される千葉県のHibワクチン接種率は、10.8%であった。

考 察
Hibワクチン導入後の2009年においても、Hib全身感染症の激減は認められなかった。インフルエンザ菌全身感染症の主体がHibであることを考えると、これは、Hibワクチンの供給不足により、ワクチン接種率が低かったことに原因があると考えられる。実際、配布数から推計される千葉県のHibワクチン接種率は、10.8%にとどまっていた。

おわりに
Hibワクチン導入により、インフルエンザ菌全身感染症を減少させることができることは、海外での状況、本邦における血清疫学的な調査から明らかであるが、そのためには、高い接種率の確保が必要不可欠である。

千葉大学医学部附属病院小児科 石和田稔彦

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