はじめに−微生物検査情報システム化の発足にあたって
 (IASR Vol.1 No.1、1980年3月発行の巻頭言
(Vol. 31 p. 74-75: 2010年3月号)

微生物検査情報のシステム化に関する研究班が1979(昭和54)年度発足し、準備を重ね今日に至った。この間班会議を2回、実行委員会を5回開き、報告様式等を決定し、また実行委員が手分けして各衛生研究所(衛研)ブロック会議に出席して、実施案の説明を行った。その結果集まった1980年検査情報(細菌1月分、ウイルス1〜2月分)を初めて第1回分としてお送りする次第である。初回のことであるから、若干の混乱はあったが、今後はもっと定期的に通報できるようになると思う。

永年のわれわれの願望であった微生物検査情報の全国的なシステム化集計が、漸くここに実現の運びになったことは、真に喜ばしい。しかし、これがどのような実効を収めるかは、むしろ今後の問題であるから、一方では責任の重さを噛みしめる次第でもある。

さて、今回の第1回細菌検査情報は55衛研から集められた。問題点の一つは検査材料取り扱い状況の数字で、たとえば飲料水の細菌学的検査を加えたところ、そのようなものは一切省いたところなど、衛研によりまちまちであったため、衛研よりの報告数に非常なバラツキが生じた。したがって報告数が少なくても実績がないという意味では決してなく、今回の数字はあくまで一種の参考に止まる。しかし今後は衛研の検査実績を示し得る数字にしたいと考えているので、コンセンサスを得る必要があると思う。しかしそれにしても、海外旅行者から病原菌の検出率が高く、現在、とくにコレラ、赤痢、サルモネラ症などの流行の原因が海外旅行者にあることが明瞭に示されていることは注目に値すると考える。今後、効率的な防衛を行う上から、海外旅行者のサーべーランスに最重点をおくべきではなかろうか。

ウイルス検査情報の方は患者個人票を基にしているので検査材料取り扱い件数についての情報は現在のシステムでは集めていないが、実績を表す数字としてこのようなものの必要があるかどうかは今後の問題である。同定の済んだ順に報告がくるので、1〜2月分でも昨年度発生症例の分をも含むことになる。これらは月別分離数の表に示され、今後も過去1年分を表示することになる。1、2月分についていえば、主流はインフルエンザウイルスとロタウイルスによる胃腸炎である。1年間を遡ると、エコーウイルス9型、エンテロウイルス71型の分離数の多いのが目立った。数は5件であるが、今まで日本ではあまり分離されたことのないアデノウイルス4型が顔を出しているのが、今後の流行を警告している可能性がある。

国立予防衛生研究所ウイルス中央検査部長 甲野禮作

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