加熱調理不足のカキが原因の一つとして疑われたノロウイルス等による食中毒事例―長野県
(Vol. 31 p. 18- 19: 2010年1月号)

2009年10月に長野県内の飲食店において、加熱調理不足で提供された「カキのソテー」が原因食品の一つとして疑われた、ノロウイルス(NV)等を原因とする食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

2009年10月20日、伊那保健所管内の飲食店で18日午後6時から会食した1グループ8名中2名が、嘔吐、下痢等の症状を呈している旨の連絡が医療機関から保健所に入った。保健所で調査を行ったところ、当該グループ8名中7名および調理従事者3名中1名が、下痢、嘔吐などの症状を呈していた。日時別の発症状況は、まず調理従事者1名が18日正午に発症した後、患者グループは19日午後8時〜20日午前8時にかけて発症していた()。なお、発症した調理従事者は、18日午前2時頃に客に提供したものと同一ロットのカキを自ら調理して食べていた()。

患者便等を検体とし、リアルタイムRT-PCR法によりNV検査1) およびサポウイルス(SV)検査2) を実施した。カキからのウイルス検査方法としては、野田ら3) のアミラーゼ処理直接法を用いた。

患者便4検体はいずれもNV陽性で、その内訳はGI・GII陽性が2検体(B、C)、GIIのみ陽性が2検体(A、D)であった。非発症者便(E)はNV(GI)陽性であった。調理従事者便3検体中1検体がNV(GI・GII)およびSV陽性で、この陽性者はカキを喫食し発症した従事者(G)であった()。なお、同一ロットのカキ4検体中1検体がNV(GII)陽性であった()。

本事例は、患者から検出されたNV遺伝子群のパターンが、いくつか存在したケースであった()。一つの可能性として、感染源はNV等を非特異的に蓄積する、カキ等二枚貝であったことが推定された。しかしながら、喫食調査の結果、非発症者Eはカキのソテーを食べていないにもかかわらずNV(GI)陽性であり()、またカキを喫食し発症した調理従事者がNV(GI・GII)およびSV陽性であったことから、この従事者が感染源になった可能性も否定できなかった。これを明らかにするには、さらに詳細な遺伝子型別等を行う必要があろう。

最近、アサリを原因食品とするSVおよびNVによる食中毒も報告されている4) ことから、原因食品として二枚貝が疑われるようなケースは、NVだけでなくSVの検索が必要であると考えられる。

 文 献
1) Kageyama T, et al ., J Clin Microbiol 41: 1548-1557, 2003
2) Oka T, et al ., J Med Virol 78: 1347-1353, 2006
3) 野田衛他、カキからの高感度ノロウイルス検出法の開発に関する研究T 検査法の改良・開発の検討、生食用カキに起因するノロウイルスリスクに関する研究 平成18〜20年度研究報告書: 13-25, 2009
4) 飯塚節子他、第56回ウイルス学会学術集会抄録集: 281, 2008

長野県環境保全研究所感染症部
吉田徹也 粕尾しず子 畔上由佳 内山友里恵 笠原ひとみ 上田ひろみ 長瀬 博 藤田 暁
長野県伊那保健所食品・生活衛生課
山川 晋 園田春美 中村安満


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