ボツリヌス症と温燻製白身魚−フランスでのE型ボツリヌス症の家族内発生、2009年9月
(Vol. 31 p. 23: 2010年1月号)

2009年9月10日、フランス南東部での3例のE型ボツリヌス症の家族内発生がフランス公衆衛生サーベイランス研究所(French National Institute for Public Health Surveillance)に報告された。

3例の内訳は52歳と46歳の成人と13歳の小児で、9月7日に消化器症状に続く下降性の麻痺という典型的なボツリヌス症の症状を発症し、翌日入院した。2例は軽症で四肢の麻痺や呼吸障害はなく、入院翌日に退院したが、成人の1例は重症で運動機能が回復してきた9月29日まで入院した。重症例では血清と胃液からE型ボツリヌス毒素が検出されたが、軽症の2例では便を含め検体から菌や毒素は検出されなかった。さらなる追加症例は見つからなかった。

喫食調査で、この家族の発症者3例が発症前日の9月6日に真空パックされた温燻製白身魚を食べており、残り1例の非発症者の家族は食べていなかったこと、ボツリヌス症のリスクとして知られる自家製の缶詰野菜や、ハム・ソーセージなどを食べていないことなどが判明した。この温燻製白身魚は、家族がフィンランド東部の村のスーパーマーケットで8月22日に購入したもので、クーラーボックスに入れられ14時間かけて自宅まで運ばれ、冷蔵庫で保管された後、9月6日に熱を入れないまま食べられており、自宅には食材の残りはなかった。

フィンランドの食品管理局が製造過程を調査したところ、この温燻製白身魚は2カ月前にカナダから輸入されていた。−18℃で保管された後、8月16日に解凍、3℃以下で塩漬けにされ、2時間かけて68℃で燻製、600kgの塊で8月18日に0℃で小売店に移送されていた。同じ塊にあり一日後に燻製にされた魚はフィンランドのヘルシンキ大学の食品環境衛生部でPCR検査が行われたが、ボツリヌス菌は陰性であった。

この事例の情報は9月11日には早期警告対応システム(Early Warning and Response System: EWRS)と食品・飼料の緊急警告システム(Rapid Alert System for Food and Feed: RASFF)によりヨーロッパ諸国に共有され、ただちにカナダにも流された。11月9日現在フィンランド、フランス、カナダからこの製品に関連したボツリヌス症は報告されていない。

E型ボツリヌス症は、カナダやアラスカで蔓延しており、不適切に加工された淡水・海水の水産物との関連がよく報告されているが、フランスでは稀であり、最後の報告は2003年であった。フランスでは塩漬けニシンやボラ、コイやイワシの缶詰での報告がある。温燻製白身魚とE型ボツリヌスとの関係は、フィンランド、ドイツ、米国、イスラエルからも報告されており、フィンランドとドイツの例では今回と同じくフィンランドで加工されたカナダ産の魚であった。

今回は軽症2例では毒素が確認されなかったが、これは検体採取のタイミングや毒素量によっては珍しいことではない。また食材から菌の芽胞が確認されていないが、これも珍しいことではない。追加症例が見つかっていないことからも汚染は限定的であったと考えられた。菌の増殖と毒素産生を抑えるために最も重要な因子は3℃以下での保存であり、そのことはこの製品のラベルにも明記されていた。直接の原因はフィンランドからフランスまでの移動時、および自宅冷蔵庫での保管の温度(フランスの冷蔵庫の平均温度は6.6℃)に問題があったと考えられた。

(Euro Surveill. 2009;14(45):pii=19394)

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