ホテルの食事を原因とするカンピロバクター食中毒事例の再現試験と再発防止の検討―新潟県
(Vol. 31 p. 13-14: 2010年1月号)

はじめに:2004〜2008(平成16〜平成20)年に新潟県内において発生した食中毒のうち、カンピロバクターを原因とする食中毒の件数は全体の14%を占めている。なかでも、2006(平成18)年においては、県内の食中毒44件のうち約3割にあたる12件がカンピロバクターを原因とするもので、そのうち食肉が原因とされたものは4件であった。

平成18年6月、県内ホテルにおいてCampylobacter jejuni による集団食中毒が発生した。調査の結果、夕食に出された鶏肉の陶板焼き(皿に盛られた1人分の食材を陶板にのせ、固形燃料で加熱する料理)の不適切な提供方法が原因ではないかと疑われた。そこで、本事例の再現試験を実施した。

概要:2006(平成18)年6月、県内大型ホテルに修学旅行で宿泊した3小学校 221名のうち59名が下痢・腹痛・嘔吐症状を呈しているとの連絡をうけ調査した。調査過程で、同一の献立が継続的に提供されていたことがわかり、約1カ月分の遡り調査をしたところ、摂食者数3,415名のうち、県内11小学校の計87名と、一般客9名、計96名の有症者を確認した。患者全員に共通している食事が同施設で提供された食事に限られること、医師から食中毒の届出がされたこと、患者便からC. jejuni が検出されたことからC. jejuni を原因とする食中毒と断定した。

再現試験:
(1)加熱による鶏肉の温度変化
実際の調理工程(図1)と同様に陶板に各材料(鶏肉は25gの小片に切り、野菜は重量を60gに調整した)をのせ、加熱して鶏肉の中心温度を経時的に調べた。加熱開始から約10分で75℃まで上昇し、その後は80〜90℃の高い温度が保たれ、肉は中央部分まで白変した。固形燃料の燃焼時間は17〜24分であった。

(2)鶏肉から割り箸への汚染試験
汚染鶏肉(25gに切った市販鶏肉をC. jejuni 菌液に30分間浸漬し、1夜冷蔵保存)と市販鶏肉を割り箸で1回(3秒間)つまんだところ、5/6の割り箸にC. jejuni 汚染が確認された(表1)。

(3)鶏肉から野菜への汚染試験
提供時と同様に皿に盛りつけた野菜の上に、汚染鶏肉を30分間置き、野菜への汚染の移行を定量的に調べた。No.1の汚染鶏肉ではC. jejuni の移行は確認されなかったが、No.2の汚染鶏肉では野菜に移行した(表2)。

(4)加熱による消長試験
前述の鶏肉と野菜を用い、加熱時間によるC. jejuni の消長を経時的に調べた。No.1の汚染鶏肉では10分の加熱でC. jejuni は検出されなくなり、同時に調理された野菜では各時間設定すべてでC. jejuni の移行は確認されなかった。一方、No.2の汚染鶏肉では15分の加熱でC. jejuni は検出されなくなった。同時に調理された野菜では10分の加熱でC. jejuni は検出されなくなった(表2図2)。

考 察:温度変化試験では、加熱開始から10分後に中心温度が75℃まで上昇していた。汚染鶏肉に接触したほかの具材も二次汚染されることが判明したが、加熱による菌数の推移を見ても10〜15分でC. jejuni が検出されなくなったこと、固形燃料は17分以上加熱できるものであったことから、この陶板焼きにおいては、燃料不足の問題はなかった。しかし、客が十分に加熱して食べたかは不明であり、提供者がそのことを確認することは難しい。

また、市販鶏肉のほとんどはC. jejuni に汚染されており1) 、生の鶏肉を1回つまんだ時点で箸がC. jejuni に汚染されることがわかった。今回の事例では箸を1膳しか用意しておらず、陶板焼きに使用する鶏肉は食事をする箸で客自らが陶板にのせて調理する方法であったため、汚染された箸で食事をしたことによりC. jejuni に感染した可能性も考えられる。このことから、食材は提供時に陶板へ盛り付けておく必要がある。

 文 献
1)原 智之、他、食品衛生研究 58(5): 43−46, 2008

新潟県保健環境科学研究所 細谷美佳子
新潟県三条保健所 原 智之
新潟県魚沼保健所 大関桂子
新潟県佐渡保健所 山本健次
新潟県新発田食肉衛生検査センター 佐藤 博

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