子ウシとの接触が原因と示唆されるクリプトスポリジウム感染症事例―青森県
(Vol. 30 p. 319- 321: 2009年12月号)

2009年6月30日、青森県上北地域県民局地域健康福祉部保健総室(上十三保健所)に管内の医療機関から「A大学の学生2名が下痢、嘔吐等の症状を訴え受診している。また、同様の症状を呈した学生十数名が欠席している。」旨の通報があった。

調査および原因究明の結果、学生の臨床実習において子ウシとの接触が原因と示唆されるクリプトスポリジウム感染症事例であり、その発生概要および病原体の検出について報告する。

発生概要:A大学において学生実習のため、6月12日近隣の畜産農家から子ウシ3頭を搬入した。翌13日に1頭が水様性下痢症状を示し、別の牛舎においてサルファ剤の治療が行われた。15日には、B研究室の学生9名による当該子ウシの内診が行われた。18日に内診を行った学生1名が下痢症状等を呈した。その後、19日3名、20日1名、21日2名、22日3名、23日1名、24日1名と、27日には同じ牛舎で作業し、罹患子ウシとは全く接していないC研究室の学生1名の計13名の発症者が確認された(表1)。

原因究明:発症者13名中10名から採取された糞便について、病原性細菌、下痢性ウイルス、原虫(クリプトスポリジウム)について検索を行った。結果は細菌、ウイルスともに陰性で、原虫のクリプトスポリジウムのオーシストが10検体中9検体から検出された。

クリプトスポリジウムのオーシストは、糞便材料をショ糖を用いた遠心浮遊法により集嚢し、モノクローナル抗体を用いた直接蛍光抗体染色法により確認された。また、種の同定および遺伝子型については、増幅遺伝子のダイレクトシークエンスとRestriction Fragment Length Polymorphism(RFLP)により検討した。DNAの抽出はQIAamp DNA Stool Mini Kitを用い、Cryptosporidium parvum のポリスレオニン遺伝子内518bpのPCRには、CRY-44、CRY-373のプライマーを使用した。RFLPの制限酵素にはRsa Iを用いた。

結果は、図1に示したようにC. parvum のポリスレオニン遺伝子内518bpが10検体中9検体で検出され、RFLPでは9検体とも273bp、128bp、62bpと55bpが混合したものの3つに切断され、切断パターンからウシ型であることが確認された(図2)。さらに、増幅された518bpについてダイレクトシークエンスを行った結果、C. parvum であることが確認された。

本事例は、限られた範囲の発症者で、発病子ウシに接触した学生が最初に発症し、接触していない学生1名については、同じ牛舎の罹患ウシに近い場所での作業を行っていたことから牛舎内の環境汚染が原因と考えられた。また、クリプトスポリジウムオーシストの遺伝子型が検出された9検体すべてで同じであったことなどから、子ウシからの感染であることが推定された。

予防として、保健所からは手洗い場等の環境整備、タオル等の共用はせずペーパータオル等に変更すること、作業着等の洗濯は熱湯消毒後行うよう指導が行われた。

青森県環境保健センター微生物部 和栗 敦 野呂キョウ 三上稔之
上北地域県民局地域健康福祉部保健総室(上十三保健所)
蓬畑恵久美 越後 秀 橋端 宏 大見丈治 反町吉秀

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