新型インフルエンザ対策における市町村との連携と対応について−集団感染をいかにして制御するか・沖縄県南部福祉保健所の取り組み
(Vol. 30 p. 264-265: 2009年10月号)

経緯と概況
沖縄県での最初の新型インフルエンザ患者の確認は2009年6月29日で、国内初の感染例の確認から約40日後のことであった。これはオーストラリア在住の日本人が旅行で持ち込んだ例で、二次感染は見られなかった。7月4日にフィリピン、7月6日にはハワイから帰国した住民がPCR検査の結果、新型インフルエンザと診断され、その接触者から沖縄本島中部地区を中心に感染拡大が始まったと考えられる。当保健所は本島南部の3市4町を管轄する地区であるが、第31週(7/27〜8/2)には患者数が急増、次週(第32週、8/3 〜8/9)には警報レベルに達し、第33週(8/10〜8/16)には沖縄県全体が警報域に入った。以下、7月中に当所管内で経験した専門学校における大規模集団発生事例への対応、さらに増加する集団発生への対応のために行われた市町村との積極的な連携について述べる。

専門学校での集団感染の制御
2009(平成21)年7月17日、当保健所管内にある専門学校で複数名の感染者が確認され、休校措置が採られたが、その後も感染拡大が認められたため、7月21日から当保健所が積極的に対策の支援を行った。その方法は、学校内での有症状者間のリンクを示す表(以下、リンク表)を作成し、感染の母体が学校内なのか、学外(居住地、アルバイト先等)なのかを判断し、学校内の場合はポイントとなる人物を抽出して行動歴に関する聞き取り調査を行うものであった。聞き取り調査は保健所から電話で行い、収集した情報を患者間のリンク表にまとめ、その資料を学校側と共有した。リンク表へは情報を経時的に追記の上、学校側と具体策を協議し、学級閉鎖期間、個人の登校停止措置等について柔軟な対応を行った。

学校との協議で、学校長、関係者に確認したことは、調査の結果、個人責任の追求は行わず、今回の集団感染を学校管理者の危機管理の問題と捉え、学生の自覚を促す具体的な注意喚起にして行くことを確認した。

保健所管内の市町村との連携
集団感染事例が多く発生したことから、8月3日、当保健所は集団感染の制御を市町村と連携することとした。その主な内容は、保健所に各市町村の窓口になる担当者(保健師、感染症担当事務、医師)を配置し、今後の集団感染に関しては市町村の保健部局が保育所、教育関係部局、学校と連携して情報を収集し、発症者情報一覧表とリンク表を作成し、保健所にその情報を報告、対策を協議するというものであった。すなわち、前述した専門学校などへの対応のノウハウを市町村に伝授し、実質的な情報収集は市町村の新型インフルエンザ対策本部に委ね、保健所は対策の問題点、方針を市町村に助言した。市町村には発症者情報一覧表と、前述した専門学校でのリンク表を作成するための情報の採りかたについての例をサンプルとして提供した。

1保健所が同時期に対応可能な集団感染事例は数カ所に限られる。このような体制を確立することによって1市町村が数カ所ずつ対応すれば、保健所としては数10カ所の集団感染への対応が可能となった。

市町村からは、“自分たちが集めるべき情報が感染制御を目的として十分なものか不安がある”、“収集した個人情報を保健所に共有することに抵抗がある”、といった意見もあったが、多くの関係者は自分たちのやることに具体性が持てたことに喜びを感じ、会議の席で、“今からワクワクしています”と発言してくれた市町村の保健師もいた。

説明会での市町村への確認事項は、調査によって個人責任を追及せず、住民への啓発活動に向けていくことであった。さらに、PCR検査結果をもとに集団発生への対応を行っていたが、市町村が台帳を作成して7月28日以降はA型インフルエンザと診断された方は新型インフルエンザと判断し、把握しておくことを助言した。その利点は、今後、新型インフルエンザの感染が同じ保育園、学校等で生じた場合、自然に感染のリンクが切れると判断できる資料となることである。

市町村の対応の実際とその成果
市町村の担当者と保健所の担当者間の情報共有やデータの更新は専門学校の対応と同様に電子メールを用いた。データを新たに加筆、修正した部分には保健所側が赤字で、市町村側は青字で示し、お互いが確認をしたら、それぞれが青字を黒字に、赤字を黒字にする作業を行った。

市町村が管轄の集団感染に対応することで、保健所への問い合わせは激減し、保健所による対応、相談も市町村の対策本部と相談するように勧めるだけで良くなった。また、一度事例が発生した保育園などにおける再度の大規模な休園措置を回避することが可能となり、夏休み明けの学級閉鎖対応に関してもある程度の見込みが示せる状態になったと考えている。最大の利点は、保健所と市町村、市町村と教育機関との連携がとりやすくなったことであった。

考 察
今回、管内で発生した新型インフルエンザの集団感染を市町村の新型インフルエンザ対策本部との連携を強化することによってその集団での拡大防止対策に寄与をした。市町村などと作成したリンク表を分析してみると、休校措置、学級閉鎖等の措置により最終接触からほぼ4日までで新たな発症者は出現せず、感染のリンクも切れることがわかる。沖縄県中部保健所でのデータでも、接触者の発症は、5日目以降は急速に少なくなることが確認されている。集団感染に対して、7日間の学級閉鎖等の措置を一律行う必要はなく、休園措置の後は、感染のリンクが切れた学級、学年からの再開等、社会的影響に配慮し、柔軟に対応した。

インフルエンザ定点サーベイランスでは第34週(8/17〜8/23)に全国42都道府県が流行開始となり、8月28日には政府が新型インフルエンザの流行シナリオを発表した。沖縄県は9月上旬現在で突出して高い状態にある。沖縄県は人口が約 130万人で全国の約1%に相当し、また、日本という島国の中の島嶼県であり、まさに日本の縮図である。今回の我々の取り組みが、わが国での新型インフルエンザ対策に少しでも参考になれば幸いである。

謝辞:終わりに、前述の専門学校および南風原町、糸満市、豊見城市、南城市、西原町、八重瀬町、与那原町の保健、福祉、教育、総務の各担当部門にご協力をいただきましたことを深謝申し上げます。

沖縄県南部福祉保健所
小林孝暢 大城美沙子 中村孝一 多和田尚志 塩川明子 河野百合子 照屋明美 山川宗貞 譜久山民子

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