成田空港検疫所関連検査での新型インフルエンザ患者の確認―千葉県
(Vol. 30 p. 258-259: 2009年10月号)

2009年4月末のメキシコおよび米国から報告された新型インフルエンザウイルスA(H1N1) 感染に対し、厚生労働省は、国内の医療体制・検査体制等を整えるとともに、検疫を重視した水際作戦・封じ込め作戦を実施してきた。その中で5月8日、カナダから米国経由で成田空港に帰国した大阪府の高校生2名と同伴の教師1名の計3名が、成田空港検疫所(以下検疫所)と国立感染症研究所(以下感染研)の検査で新型インフルエンザウイルス(以下AH1pdm)に感染していることが確認され、同時に濃厚接触者と考えられる49名については、成田空港周辺の宿泊施設において健康観察として停留措置がとられた。

5月9日、停留者の中で患者と行動をともにしていた高校生7名が発熱等の症状を訴え、2名が千葉市内、5名が千葉県内の指定病院に搬送された。これを受けて、千葉市環境保健研究所と千葉県衛生研究所において検査を実施したところ、当所で検査した1名がAH1pdmに感染している可能性が極めて高い結果を示した。なお、7名の検体は検査の開始と同時に「新型インフルエンザ診断検査のための検体送付について」に基づき、四種病原体輸送のカテゴリーAの包装で感染研に搬入した。

今回のAH1pdmに対する検疫所関連の検査は、本来入国手続きが終了しておらず、検疫所において実施すべきものであったが、厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部より、千葉県、千葉市がPCR検査実施の協力依頼を受けての実施である。

検査は、病原体検出マニュアルH1N1新型インフルエンザ(2009年5月ver.1)により、コンベンショナルRT-PCRおよびリアルタイムRT-PCRを実施した。リアルタイムRT-PCRにおける季節性インフルエンザウイルスA/H1N1(ソ連型)とA/H3N2(香港型)については、2008年8月に開催された地方衛生研究所研修会において、感染研ウイルス第3部インフルエンザウイルス室・影山務先生より参考として示された方法を加えて、両検査系ともに4遺伝子の同時検査を実施した。

その結果、1名の鼻咽頭ぬぐい液から、コンベンショナルRT-PCRで、M遺伝子とAH1pdm HA遺伝子に、陽性コントロールと同一の位置に目的とする大きさのバンドが検出された。季節性インフルエンザウイルスのAH1亜型のHA遺伝子とAH3亜型のHA遺伝子については検出されなかった。

また、リアルタイムRT-PCRでも、M遺伝子でcycle threshold (Ct)値34.4、AH1pdm HA遺伝子でCt値36.4で陽性となった。この時季節性インフルエンザウイルスAH1亜型については、Ct値43.9と検出限界付近で検出された(表1)。

しかしながら、感染研より配布されたH1N2 RNA陽性コントロールを用いた事前の検出感度の検討(表2)において、リアルタイムRT-PCRにおいて交差反応が存在することを確認していたことから、AH1pdm陽性と判断した。翌5月10日、感染研の検査結果も同様であり、日本での新型インフルエンザ感染患者第4例目であることが確認された。患者に関する情報は、当所では詳細が不明のため以下URLを参照されたい(http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/houdou/2009/05/dl/infulh0510-06.pdf)。

分離培養は、患者の鼻咽頭ぬぐい液をMDCK細胞およびHeLa細胞に同時まき込みによる接種で行った。両細胞ともに接種後5日でインフルエンザ簡易診断キットにA型陽性を示したため、リアルタイムRT-PCR、コンベンショナルRT-PCRおよびダイレクトシークエンスで確認したところ、分離株もAH1pdmであることが確認され、A/Chiba (千葉)/1001/2009pdmとした。

分離株の赤血球凝集性は、ニワトリ赤血球に対しHA価32、七面鳥赤血球に対しHA価8、モルモット赤血球に対しHA価2、ヒトO型赤血球に対しHA価<2であった。

また、同時に「血清の使用に関する説明と承諾」についての書類を病院に送付し、患者および患者の保護者の同意書とともに退院直前(5病日)の血清を得た。血清は感染研分与のA/California/7/2009pdmX-179A AH1Ex+1に対し、HI抗体価10であった。その後の抗体上昇の確認は、住所地が他県であるため血清が得られず行っていない。また、ホモである分離株A/Chiba(千葉)/1001/2009pdmに対する抗体価は、非特異反応のため現在のところ得られていない。

今回のAH1pdmに対する検疫所関連の検査は、感染研よりマニュアルが示され、プライマーや試薬等がすべて揃い、事前検討が終了した段階での搬入であったことから、格段のトラブルもなく対応できた。今回の感染研の速やかな対応に感謝している。

また、AH1pdmの検査は、初期の検出の段階から、現在はウイルスサーベイランスとして、ウイルス分離による抗原解析、耐性株の調査等、ウイルスの性状を調べる段階へと変化してきている。AH1pdmは未知の部分が多く、今後も感染研を中心に各地研からの情報の集約と速やかな情報の提供をお願いしたい。

千葉県衛生研究所
小川知子 丸ひろみ 高木 素 福嶋得忍 篠崎邦子 吉岡 康 小岩井健司 江口弘久

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