国内発生第2例目のコレラ毒素産生性Vibrio cholerae O139感染事例―堺市
(Vol. 30 p. 241- 242: 2009年9月号)

2008年6月、コレラ毒素(CT)産生性のVibrio cholerae O139国内発生事例があったので概要を報告する。

患者は33歳の女性、2008年6月16日に激しい水様性下痢および嘔吐、さらに脱水、血圧低下、無尿の症状を呈した。発熱や腹痛は無かった。夜間に市内の医療機関を受診し、翌日入院となり、抗菌薬投与により快方に向かった。

17日の便検体より検査機関においてV. cholerae O139が分離され、当所に菌株が送付された。抗血清による血清型別、O139特異遺伝子、CT遺伝子、さらにCT産生性をRPLA法により確認し、当該菌はV. cholerae O139(CT+)であると同定した。

当該菌の主要性状は、TSI:黄/黄、ガス−、硫化水素−、LIM:リジン+、インドール+、運動性+、食塩加ペプトン水発育では、食塩濃度の0%+、3%+、8%−、チトクロームオキシダーゼ+であった。また、API20EでV. cholerae (推定確率99.6%)であった。12薬剤(ABPC、CTX、KM、GM、SM、TC、CP、CPFX、NA、NFLX、FOM、ST)に対する薬剤感受性試験では、ABPC、SM、STの3薬剤に耐性が認められた。

患者の海外渡航歴は無く、聞き取り調査の結果、6月12日は、某市の居酒屋で友人と刺身、ウニ、にぎり寿司を喫食、14日は自宅でとろサーモンすり身生食用真空パック(輸入食品?)を、お湯でもどして喫食したことが確認され、それらが原因食と推測された。患者は両親との3人家族であるが、両親は同一食を喫食しておらず、下痢等の症状もなく、検便において当該菌は検出されなかった。なお、当該食品の残品は無く、原因食品の究明には至らなかった。

日本におけるV. cholerae O139(CT+)によるコレラ感染事例は少ない()。1993〜1997年までの12例の他、2002年10月の横須賀市の1例(IASR 23: 315, 2002)、2004年10月の山形県の2例(IASR 27: 9-10, 2006)はすべてが輸入事例であり、2006年9月の広島市の1例(IASR 28: 86-88, 2007)が国内発生例としての最初の報告例である。今回の事例と同様、広島市での事例においても、刺身を喫食していたことが判明しているが、原因食品の特定には至っていない。

近年は輸入食品・食材の種類、量ともに増加の一途である。しかし、2007年6月から、検疫法の改正により検疫感染症からコレラが除かれ、輸入食品等についてはモニタリング検査が実施されているが、これらをすり抜けてコレラ感染の機会が増える可能性も危惧されている。最近はコレラに罹患しても、軽い下痢や軟便で経過することも多いが、本事例のように重篤化することがあるため、今後はV. cholerae O139も含め、コレラの発生動向に一層の注意が必要と考える。

堺市衛生研究所
沼田富三 山内昌弘 横田正春 下迫純子 大中隆史 狩山雅代 田中智之

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