A型インフルエンザ全数把握調査―沖縄県
(Vol. 30 p. 183-184: 2009年7月号)

2009(平成21)年5月9日、国際空港における検疫段階で新型インフルエンザ輸入症例が初めて確認され、さらに5月16日には、海外渡航歴のない新型インフルエンザ感染患者が国内での1例目として確認された。一方、沖縄県では第16週(4/13〜4/19)以降インフルエンザの小流行が認められ、第20週(5/11〜5/17)の患者報告数は定点当たり8.2人でAH3亜型およびB型が分離された(図1)。このような状況において県は、季節性インフルエンザと新型インフルエンザの混合流行も懸念されることから、県内のインフルエンザ流行株を詳細に把握する目的で、第21週(5/18〜5/24)に県内の全医療機関を対象としたA型インフルエンザ全数把握調査を緊急的に実施した。

医療機関では、患者同意のもと迅速診断キットでA型陽性を示した症例を中心に咽頭または鼻腔ぬぐい液が採取され、調査期間内に46検体(迅速診断キット陰性3例を含む)が集められた。このうちの35検体は定点以外の医療機関で採取され、残りの11検体は定点医療機関で採取された。患者の年齢は、0〜9歳19名、10〜19歳と30〜39歳が各7名、40〜49歳と50〜59歳が各4名、20〜29歳3名、60歳以上2名であった。

集められた46検体について、リアルタイムPCR検査およびMDCK細胞によるウイルス分離を行った。その結果、PCR陽性は39例、陰性は7例であった。PCR陽性例はすべてAH3亜型で、新型インフルエンザAH1pdmは検出されなかった。PCR検査と迅速診断キットの結果を照合すると、PCR陽性39例のうち38例は迅速診断キットでA型陽性、1例は陰性であった。また、PCR陰性7例のうち5例は迅速診断キットでA型陽性、2例は陰性であった。MDCK細胞によるウイルス分離は、PCR陽性例のうち26例で分離され、PCR陰性例からは分離されなかった。

A型インフルエンザ全数把握調査で分離されたAH3亜型26株および第20〜23週に通常の病原体サーベイランスで分離されたB型10株について、国立感染症研究所から配布された2008/09シーズンキットを用いて赤血球凝集抑制(HI)試験(0.75%モルモット赤血球を使用)を行った。その結果、AH3亜型分離株はいずれも抗A/Brisbane/59/2007(ホモ価640)に対してHI価<10、抗A/Uruguay/716/2007(同640)に対してHI価40〜80(1株のみHI価160)で低反応性を示した。B型分離株は、いずれも抗B/Brisbane/3/2007(同1,280)に対してHI価<10、抗B/Malaysia/2506/2004(同1,280)に対してHI価80〜160で低反応性を示した。

以上の結果から、第16週以降に県内で発生しているインフルエンザ小流行は、2008/09シーズンワクチン株とは抗原性が大きく異なるAH3亜型とB型による混合流行と考えられ、現時点で新型AH1pdmは県内に侵入していないことが示唆された。このインフルエンザ小流行は、第23週(6/1〜6/7)の時点でまだ終息に至っておらず、新型AH1pdmと合わせて今後の動向を注視しなければならない。

今回のA型インフルエンザ全数把握調査において、迅速診断キットではA型陽性を示したがPCRでは陰性を示した症例が5例確認された。PCR検査は迅速診断キットより検出感度が優れていることから、この5例については同検体を用いて再度PCR検査を実施したが、結果は前回と同じであった。この理由として、迅速診断キットでの偽陽性や、PCR検査に供した検体に含まれるウイルスが少量であったなどの可能性が考えられるが、今後詳細な検討が必要と思われた。

沖縄県衛生環境研究所
平良勝也 岡野 祥 仁平 稔 糸数清正 久高 潤 中村正治
沖縄県福祉保健部医務課 糸数 公
沖縄県感染症情報センター 古謝由紀子
沖縄県北部保健所 多和田弘 東 朝幸
沖縄県中部保健所 大嶺悦子 松野朝之
沖縄県中央保健所 上原健司 国吉秀樹
沖縄県南部保健所 中村孝一 小林孝暢 山川宗貞
沖縄県宮古保健所 下地 崇 平良セツ子
沖縄県八重山保健所 嘉手納克子

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