わが国のブタにおける日本脳炎に対する抗体保有状況(感染症流行予測調査より)
(Vol. 30 p. 151-152: 2009年6月号)

はじめに
ブタは日本脳炎ウイルス(JEV)に対する感受性が高く、JEVの主要な増幅動物とされているが、ブタの体内で増殖したウイルスは、蚊(主にコガタアカイエカ)の吸血行動によりヒトや他の動物へ感染する。したがって、ブタにおけるJEVに対する抗体の保有状況を調査することは、JEVの侵淫状況を把握し、感染予防の注意を促すためにも非常に重要である。本稿では2008年度感染症流行予測調査において実施された日本脳炎感染源調査の結果(暫定結果)について報告する。

対 象
2008年度は35都道県において日本脳炎感染源調査が実施された。

検体の採取時期および回数については、原則として5〜9月の間ではあるが、地域により1)沖縄県:5月上・中・下旬、6月上・中・下旬、7月上・中・下旬、8月上旬の10回、2)沖縄県を除く近畿地方以西の各県:7月上・中・下旬、8月上・中・下旬、9月上・中旬の8回、3)北海道および東北地方の各県:7月下旬、8月上・中・下旬、9月上・中・下旬の7回、4)上記以外の各都県:7月中・下旬、8月上・中・下旬、9月上・中・下旬の8回とした。

検体は、各都道県においてなるべく自地域産のブタが集まると畜場1〜2箇所から1回につき10頭のブタから採取された血清とした(ただし、これはあくまでも目安であり、多くの地域でこれ以上の検体が採取された)。また、検体を採取するブタの種類や性別は問わないが、前年の夏季にJEVに曝露する機会がない5〜8カ月齢のブタとした。

方 法
ブタから採取された検体は、各都道県の衛生研究所において「感染症流行予測調査事業検査術式(厚生労働省健康局結核感染症課、国立感染症研究所感染症流行予測調査事業委員会/平成14年6月)」に準じ、日本脳炎赤血球凝集抑制抗体価(HI抗体価)が測定され、HI抗体価1:10以上を抗体陽性とした。結果は国立感染症研究所感染症情報センター第三室に報告され、当室で集計、解析を行った。なお、本報告は2009年4月時点における暫定結果によるものである。

結 果
図1に2008年7〜10月までの抗体陽性率の推移を示した(なお、地図の色分けは、調査開始から当該月の月末までに実施された調査における最高抗体陽性率を示しており、当該月の抗体陽性率を示したものではない)。

7月末までに34都道県で調査が実施され、このうち15都県において抗体陽性のブタが確認された。8月末までには35都道県すべてで調査が行われ、抗体陽性のブタが確認されたのは28都道県に増加し、9月末までには調査した35都道県中1県を除くすべてで抗体陽性のブタが確認された。また、抗体陽性率が50%を超えた地域について、7月末までは富山県、三重県、島根県、香川県、高知県、長崎県、大分県、沖縄県の8県のみであったが、8月末までには、滋賀県、鳥取県、広島県、徳島県、佐賀県、熊本県、宮崎県、鹿児島県の8県が加わり16県に増加した。9月末までには上記16県に秋田県、埼玉県、千葉県、山梨県、静岡県、兵庫県、愛媛県を加えた23県で抗体陽性率が50%を超えた。最終的に10月末までに35都道県中34都道県で抗体陽性のブタが確認され、抗体陽性率が50%を超えたのは、24県(上記23県+茨城県)に及んだ。さらにこのうち18県で抗体陽性率が80%を超えた。

考 察
2008年度の調査において、ほとんどの調査地域(35都道県中34都道県)で抗体陽性のブタが確認され、そのうち7割以上の24県で抗体陽性率が50%を超えた時期がみられた。これは、近年3年における調査結果(2006年度:33都道県中27都道県で抗体陽性のブタが確認され、17県で抗体陽性率が50%を超えた/2007年度:32都道県中26都県で抗体陽性のブタが確認され、16県で抗体陽性率が50%を超えた)の中では多く(図2)、特に秋田県で抗体陽性率が50%を超えたのは過去10年間の調査結果をみても初めてのことであった。

2008年は感染症発生動向調査により報告された日本脳炎患者数は3名であり、小児での患者はいなかったが、2005年5月の「定期の予防接種における日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて」の勧告以降、日本脳炎の定期予防接種を受ける者の激減により、小児における感受性者の蓄積がみられている。しかし、ブタにおいては、西日本をはじめとする広範な地域でJEVの感染が毎年確認されていることから、今夏のJEVの侵淫状況についても引き続き注意する必要がある。日本脳炎感染源調査は2009年度も調査実施予定であり、結果については速報として感染症情報センターのホームページ上に掲載予定である(http://idsc.nih.go.jp/yosoku/index.html)。

最後に本調査にご協力いただいた関係者および関係機関に深謝申し上げます。

国立感染症研究所感染症情報センター 佐藤 弘 多屋馨子 岡部信彦
   同      ウイルス第一部      高崎智彦 倉根一郎
2008年度感染症流行予測調査事業日本脳炎感染源調査担当
北海道、青森県、宮城県、秋田県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、
新潟県、富山県、石川県、山梨県、静岡県、三重県、滋賀県、兵庫県、鳥取県、島根県、広島県、徳島県、香川県、
愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県および各都道県衛生研究所

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