東京都内の3保育園で発生した腸管出血性大腸菌O26感染事例
(Vol. 30 p. 127-128: 2009年5月号)

2008年8月〜9月にかけて、東京都多摩地域の隣接する2市内の3カ所の保育園で、腸管出血性大腸菌(EHEC)O26 (VT1産生)による集団感染事例が発生した。

事例1:A保育園(園児 212名、職員39名)では、2008年7月29日〜8月27日までの間に、園児25名からEHEC O26:H-(VT1産生)が検出された。園児25名中発症者は16名、無症状病原体保有者は9名であった。また、園児の家族7名(小学生2名、母親4名、祖母1名)からも同菌が検出された。7名のうち、発症者は小学生1名と母親1名のみであった。発症者の症状は、4名に下痢(うち1名に血便)が見られたが、他は軟便程度で、入院を要した者はいなかった。菌陽性者を年齢別にみると、0歳児7名中7名(100%)、1歳児15名中8名(53%)で、0歳児と1歳児から高率に検出されたが、2〜5歳児の陽性者は10%以下であった。この年齢別検出状況から給食を原因としたものとは考えられなかった。0歳児と1歳児は、同一区画で保育を行っており、プールやおむつ交換等の保育環境による感染の拡大が推測されたが、その汚染源は不明であった。

本事例では、除菌確認検査も含めて355件の糞便検査を行い、34件から当該菌が検出された。検査では、選択分離寒天としてCT-RMAC寒天とRXO26寒天を、増菌培地としてCT-TSBを用いた。直接分離でEHEC O26を検出できたのが30件、増菌培養のみで検出されたのが4件であった。また、分離されたEHEC O26は、供試した14薬剤(CP、TC、SM、KM、ABPC、ST、NA、FOM、NFLX、GM、CTX、CPFX、OFLX、Su)すべてに感受性であった。

事例2:B保育園(園児162名、職員等51名)では、2008年8月初旬〜9月下旬までの間に、園児12名(2歳児9名、3歳児1名、4歳児2名)からEHEC O26:H-(VT1産生)が検出された。発症者は、園児12名中2名のみで、軟便あるいは水様便程度の症状であった。残りの10名は無症状病原体保有者であった。また園児2人の各兄姉(小学生:8歳、7歳)からも、EHEC O26:H-(VT1産生)が検出された。本事例では、除菌確認検査も含めて267件の糞便検査を行い、18件から当該菌が検出された。直接分離で11件、増菌培養のみで検出されたのが7件であった。最も長く当該菌が検出された園児では、最初の検出後から19日目にも当該菌が検出された。分離されたEHEC O26:H-(VT1産生)は、供試した14薬剤(事例1と同じ薬剤)すべてに感受性であった。

事例3:C保育園(園児89名)では、2008年9月初旬、園児3名(0歳児2名、1歳児1名)と職員1名からEHEC O26:H11(VT1産生)が検出された。症状は、0歳児1名に水様性下痢便が認められたのみで、他の園児2名および職員は無症状であった。無症状の0歳児の便(9月9日採取)から当該菌が認められ、その兄(4歳、無症状)の便(9月22日採取)からも同菌が検出された。本事例では、除菌確認検査も含めて 103件の糞便検査を行い、12件から当該菌が検出された。直接分離でEHEC O26を検出できたのが6件、増菌培養のみで検出されたのが6件であった。最も長く菌が検出された事例(0歳児、無症状)では、最初の検出から31日後にも当該菌が検出された。本事例由来のEHEC O26:H11(VT1産生)は、14薬剤中の4薬剤(ABPC、SM、TC、Su)に耐性であった。

3事例の関連性:いずれの事例においても、感染源を特定することはできなかった。3事例から検出されたEHEC O26について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を実施したところ、同一事例内から分離された株は同一パターンを示したが、各事例ごとのパターンは異なり、相互の関連性は認められなかった()。また、2008年に東京都内で分離されたこれら3事例とは関係のないEHEC O26の18株について調べた結果、同じPFGEパターンを示す菌株は認められなかった。

まとめ:2008年の8月〜9月にかけて、多摩地域の3保育園でEHEC O26による感染症が相次いで発生したが、相互の関係は認められなかった。いずれの事例においても、感染者に対して発症者は少なく、症状も軽度で、無症状病原体保有者が多く認められた。そのため、感染の拡大を招いた可能性も否定できない。

このような保育園におけるEHEC O26の集団感染事例は毎年国内で発生しており、その感染源は多くの場合特定されていない。また、EHEC O26感染事例では、EHEC O157に比べて発症率が低く、無症状病原体保有者が多いという特徴がある。しかし、EHEC O26もO157と同様に感染力は高い。このような菌の特徴から、保育園内での集団感染事例が多いものと推定される。EHEC O26の発症率が低いとはいえ、幼小児では重症化するリスクはある。乳幼児が集団生活する施設内では、プールやおむつ交換等の保育環境による感染の拡大などのリスクを想定した日常的な感染症対策の徹底が重要である。また、感染者の家族からも同一菌が検出される事例も多く、家庭内における二次感染予防対策の徹底も必要である。

東京都健康安全研究センター微生物部食品微生物研究科
横山敬子 高橋正樹 河村真保 小西典子 仲真晶子 甲斐明美

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