腸管出血性大腸菌(EHEC)の集団感染事例 2008年
(Vol. 30 p. 123-124: 2009年5月号)

感染症発生動向調査によるEHECの報告症例を精査し、2008年の1年間に同一施設内、または同じ集団(グループ、クラスター)と考えられる集団感染事例数の把握を行った。集団感染事例とみなす基準として、本稿ではEHEC感染者(無症状者を含めEHECが検出された者)が3人以上で、うち最低1人は同居の家族でない者が含まれている場合とし、一つの事例の感染者数には二次感染者も含めた。

2008年は30都道府県から62のEHEC集団感染事例が確認された。地域別にみると、九州地方19事例、北海道・東北地方14事例、関東地方13事例の順に多かった。原因菌として検出されたEHECのO血清群は、O157が29事例、O26 が23事例、O111が5事例、O145が3事例、O103が1事例、O26とO157が1事例であった()。集団感染に関連した施設またはグループは、保育所・幼稚園が37事例で最も多く、次いで飲食店7事例、福祉施設4事例、高校の修学旅行関連2事例などで、その他に病院内の食堂や、職場や地域におけるバーベキューなどのイベントでの集団感染事例も認められた。

保育所・幼稚園の事例に絞ってみると、O26が18事例(すべてVT1)と最も多く、次いでO157が11事例(VT2が8、VT1&2が3)であり、O103、O111、O145などの血清群による感染事例の発生も認めた。1事例当たりの感染者数は、10例未満が16事例、10例以上30例未満が15事例、30例以上が6事例であった()。30例以上の感染者が報告された事例の血清型は、O26・VT1 4事例、O103・VT1 1事例、O111・VT1&2 1事例で、O157の事例はなかった。O26による集団感染事例の場合、O157と比べて無症状病原体保有者の割合が大きかった。感染源・感染経路が推定できた事例は少なく、集団感染の原因究明に向けた積極的な調査が今後も重要である。

今回把握した62の集団感染事例の総感染者数はおよそ1,000人で、2008年のEHEC感染者全体の約1/4を占めている。そのうち、保育所・幼稚園の事例による感染者が6割以上を占め、さらにその過半数はO26・VT1による感染であった。

本報告は本邦初のデータであり、これを還元するにあたって、問い合わせ等にご協力いただいた地方感染症情報センターならびに保健所の担当者の皆様に深謝いたします。

国立感染症研究所感染症情報センター
齊藤剛仁 杉下由行* 冨岡鉄平 島田智恵 砂川富正 多田有希
   *現在 東京都島しょ保健所小笠原出張所

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