麻疹診断に対する尿検体の有用性の検討
(Vol. 30 p. 107-108: 2009年4月号)

はじめに
「麻疹」はParamyxovirus Morbillivirus 属に属する一本鎖(-)RNAの「麻疹ウイルス」によって引き起こされる、発疹を伴う発熱性の疾患である。近年では典型的症状を示さない「修飾麻疹」の増加もあり、臨床診断のみで確定することは困難であり、検査診断の重要性が指摘されている。しかしながら、2008年の検査診断例は届出件数の約35%と必ずしも高くないのが現状であり、検査診断例の増加のためには採材の簡易さや検査体制の構築も考慮する必要があると考えられる。当所では2008年5月の大学内麻疹集団発生事例において、麻疹検査診断マニュアル(第2版)に記載された「尿検体」について検査材料としての有用性を検討したので報告する。

材料および方法
検査対象材料は2008年5〜6月に当所に搬入された血液、咽頭ぬぐい液、尿、血清である。検査については抗原検査として血液、咽頭ぬぐい液、尿を対象にRT-PCR法による遺伝子学的検査を、また、抗体検査として「麻疹IgM(II)・生研」を用いた麻疹IgMの測定を実施した(図1)。

結果および考察
当県における2008年の詳細な結果は、三重県感染症情報センターホームページ(http://www.kenkou.pref.mie.jp/MR_srv/MR_all_patients2008-.xls)に記載されている。当所で抗原検査を実施した20例のうち、材料別の検査結果は表1のとおりである。この結果より、尿検体は血液、咽頭ぬぐい液と比較し、遜色ない結果が得られることが判明した。また、18病日目、34病日目において、血液からのウイルス遺伝子検出が陰性となっても尿は陽性となる事例が見られた(表2およびリンク先No.11およびNo.18参照)。これら尿検体に感染性をもつウイルス粒子が含まれているかどうかは不明であるが、尿中にはウイルス遺伝子が長期にわたり存在する可能性を示すものと考えられる。

尿検体は採材が容易であり、多検体処理を考えた場合、非常に有用な材料であると考えられる。今回当県で実施した中にはIgM 抗体陽性で遺伝子学的検査陰性のもの、遺伝子学的検査陽性でIgM 抗体陰性のものが少数ながら含まれていた。したがって尿検体の検査結果のみを持って診断するのは性急であると考えられるものの、尿検体を用いた遺伝子学的検査は十分有用な方法であると考えられる。

今回の検査にあたりご協力いただきました各保健所および医療機関の方々に深謝いたします。

三重県保健環境研究所
赤地重宏 高橋裕明 矢野拓弥 前田千恵 山内昭則 田沼正路 大熊和行

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る