麻疹風疹定期予防接種第2期・第3期・第4期対象者における接種率調査―2008年度上半期全国集計結果
(Vol. 30 p. 43-44:2009年2月号)

2007年12月28日に発出された厚生労働省告示第442号「麻しんに対する特定感染症予防指針」に基づき、現在、2012年麻しん排除に向けて、国を挙げた活動が実施されている。その中で、感受性者対策として最も重要な麻疹と風疹の定期予防接種に関しては、2006年度からの麻疹風疹混合ワクチン(以下MRワクチン)を用いた第1期(1歳児)と第2期(5歳以上7歳未満で小学校就学前の1年間にあたるもの)を対象とする2回の定期接種に加えて、2008年度からは、5年間に限り、第3期(中学1年生に相当する年齢のもの)と第4期(高校3年生に相当する年齢のもの)が接種対象に加えられた。

麻疹と風疹の接種率に関しては、国を挙げた麻疹排除の取り組みを進めるにあたり、2007年度の第2期接種率から、厚生労働省を中心に各都道府県を通して、所在するすべての市町村特別区の接種率を定期的に評価する取り組みが実施されている。昨年度は、第2期に関して、9月末と年度末の2回の評価が実施され、これらの結果は、すでに厚生労働省のホームページ(以下HP、http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/index.html)、および、国立感染症研究所感染症情報センターのHP(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/01.html)に掲載されている。

今年度、第2期に対しては、昨年度と同様に上半期の評価として9月末に、第3期・第4期に対しては標準的に接種する期間を4月〜6月としていることから、6月末に最初の評価を、9月末に上半期の評価を実施した。第3期・第4期の今年度6月末の結果は、2008年9月3日に厚生労働省で開催された第2回麻しん対策推進会議で報告されるとともに、同会議の資料として厚生労働省のHP(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/s0903-8.html)に掲載されている。同様に、9月末の結果に関しても、すでに前述の厚生労働省、および国立感染症研究所感染症情報センターのHPにおいて、集計後速やかに情報還元されている。今回は、今年度上半期の評価として実施された2008年度上半期(2008年9月末現在)の第2期、第3期、第4期における接種率調査の結果に関して、概要を報告する。なお、各群における麻疹を含むワクチンの接種率の算出方法は、各群において[(MRワクチン接種者数+麻疹単抗原ワクチン接種者数)/2008年度4月1日現在の対象者数]とした。

2008年度上半期の麻疹を含むワクチンの全国接種率は、第2期、第3期、第4期それぞれ51.2%、56.4%、47.6%であった。都道府県別の接種率をみると、最も高かったのは、第2期、第3期、第4期ともすべて福井県で、それぞれ67.4%、84.0%、73.0%であり、最も低かったのは、第2期宮崎県40.0%、第3期大阪府44.1%、第4期東京都32.4%であった。都道府県別の接種率分布を図1に示した。第2期における今年度9月末の結果は、昨年度の9月末と比較して全国的に2.9ポイントの上昇であり、最も伸びていたのは大分県の15.9ポイント、伸び率が最も低かったのは東京都の−2.9ポイントであった。第3期、第4期において、今年度の6月末の結果と比較した場合、全国的にはそれぞれ17.5ポイント、18.0ポイントの上昇であり、最も伸びていたのは第3期宮崎県36.5ポイント、第4期鹿児島県33.6ポイントであった。一方、最も伸び率が低かったのは、第3期茨城県 9.8ポイント、第4期東京都 8.8ポイントであった。伸び率が低かった第3期の茨城県と第4期の東京都の違いは、茨城県は6月末に既に71.2%と、全国第1位の接種率を達成していたことであり、9月末も引き続き高かったのに対し、東京都は6月末が23.6%と低く、9月末までに接種を受ける人が少なかったことが全国で最も低い接種率になったと考えられた。2008年9月末現在で、今年度対象者のうちで残存する未接種者数は、第2期565,954人、第3期520,801人、第4期643,678人であった。都道府県別接種率のさらなる詳細、および都道府県内の全市町村特別区の接種率、政令指定都市別・特別区別の接種率等に関しては、前述のHPにおいて掲載済みであるので、参照されたい。なお今後、第3期、第4期に関して12月末時点での3回目の評価を、第1期〜第4期までの全コホートに関して年度末時点での今年度の最終評価を予定している。

麻しんの排除を達成するための各群の目標接種率はそれぞれ95%以上とされている。その95%以上の接種率に到達するためには、予防接種の実施主体である各市町村特別区において各都道府県の支援のもと、定期的に接種率を評価し、未接種者には繰り返し接種を勧奨する、および積極的に学校・教育部門と連携するなど、市町村特別区の実情に応じた接種率向上へのさらなる取り組みが必要と考えられる。第2期に関しては、10月・11月に実施された就学時健診の場を通じて接種の勧奨・実施を行った市町村等も多く、今後の接種率の上昇が期待される。第3期・第4期に関しては、種々の調査にて、学校や保健所、保健センター等を利用した“集団の場を用いた接種”が接種率上昇において効果的であったとの情報が得られつつある。茨城県等の報告によれば、“集団の場を用いた接種”を実施した市町村では、実施しなかった市町村と比較して明確に接種率が高く、県全域で情報共有を進めた結果、茨城県における第3期接種率は上記にも示したように6月末現在ですでに71.2%に達していた。この“集団の場を用いた接種”は、かつてのインフルエンザワクチンのような、学校で学校が主体となって行い、問診、診察が十分とはいえなかった「集団接種」ではなく、個別接種と同様の問診、診察、副反応への備えを必須とし、市町村特別区を実施主体として、学校等と十分に連携しながら、実施することが必要とされる。高校生やその保護者等を対象とした意識調査の結果などからは、学校での接種を希望する声も寄せられており、多くの人が接種を受けやすくする環境作りの一方法として検討されるべきものと考える。

麻疹および風疹に罹患することは、本人が大きな被害を被る可能性があるというだけでなく、感染が拡大することで0歳児や接種不適当者に該当する人々など、接種を受けることができない人たちへも被害が及ぶ。感染症発生動向調査によれば、2008年第1週〜第52週までに合計11,007例の麻疹症例が報告され、そのうち610例が0歳児であったことが示されている(本号1ページ3ページ参照)。個人防衛の観点からだけでなく、社会防衛の観点からも、対象者の中で“対象であったことを知らなかった”、“接種を受けたかったのにチャンスがなかった”ということがないよう、我々公衆衛生・教育・医療従事者が目的意識を共有し、連携を強化した上で、対象者一人ひとりに情報が行き届くきめ細やかな対応、接種を受けやすい環境の整備等、それぞれの役割をさらにいっそう遂行することが重要である。

国立感染症研究所感染症情報センター 山本久美 多屋馨子 岡部信彦
厚生労働省健康局結核感染症課

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