2008年の麻疹発生状況―沖縄県
(Vol. 30 p. 34-36:2009年2月号)

沖縄県は、麻疹を排除するための対策の一つとして麻疹全数把握のためのサーベイランスシステムを独自で構築し、2003年1月より実施している(IASR 25: 64-66, 2004)。このサーベイランスシステムでは、麻疹の発生報告が「疑いの段階」で医療機関から報告され、すべての症例でPCR等による検査診断が行われるのが特徴である。これにより、感染拡大を防ぐための早期対応が可能となり、過去5年間の麻疹患者報告数は、2003年19例、2004年16例、2005年は発生なし(IASR 27: 87-88, 2006)、2006年18例(IASR 28:145-147, 2007)、2007年22例(IASR 28: 245-247, 2007&本号8ページ)と推移し、長期的な流行はなく限局した発生に留まっている。また、2006〜2007年に報告された麻疹患者は、すべてが県外からの移入例とそれと疫学的にリンクした症例であった。2008年においても、移入例を感染源とした麻疹発生が認められたので概要を報告する。

患者発生状況
2008年の麻疹疑い患者の報告数は220例で、2003年の全数把握開始以降最も多かった。検査診断は全症例で行われ、これにより麻疹が確定した症例は41例、否定された症例は179例であった。週別の麻疹患者発生状況は、まず第11週目に1例目が報告され、第18週までに計31例の患者が報告された。その後、第19週〜33週まで麻疹発生はなかったが、第34〜37週に再び10例の患者が報告された(図1)。

麻疹が確定した41例を年齢群別でみると、20〜24歳19例(46.3%)、15〜19歳10例(24.4%)、25〜29歳5例(12.2%)、10〜14歳5例(12.2%)、5〜9歳2例(4.9%)の順であった。また、麻疹ワクチンの接種歴は、あり19例(46.3%)、なし6例(14.6%)、不明16例(39.0%)であった。

県外からの移入例は6例発生し、関東地方4例、北海道1例、関東、中部および関西地方のいずれか特定できないものが1例であった。また移入例を感染源とした集団感染は2件発生し、1件はライブコンサート参加者を中心に発生し、もう1件は野外でバーベキューをしたグループで発生した。感染源が不明な症例は3例あった。

ライブコンサート(屋内)での集団感染
疫学調査に基づく症例間のリンクを図2に示した。初発のNo.1は県内在住の20歳男性で、3月8日に発熱、9日に発疹の症状があり、発病前の2月12日〜3月7日まで東京、大阪、名古屋への旅行歴があったことから、県外での感染が考えられた。3月9日は、ライブコンサート会場にいたため、そこでNo.3〜No.15の13名が感染した。これ以外にも同僚No.2、医療機関でNo.16、地域でNo.17などがNo.1から感染し、合計16名の二次感染者が発生した。さらに、別のライブハウスにおいてNo.5から3名の三次感染者No.18〜20が発生し、No.15やNo.17では家族内感染があった。このように、計22例が同じ感染源から拡散していったことが疫学調査により明らかになった。また、No.15は発病日が3月31日で、3月9日のライブコンサート以外に感染源が確認されなかったため、潜伏期間が22日(通常10〜12日)となり、稀な症例であった。一方、同時期において移入例4例(神奈川県3例、北海道1例)、移入例からの二次感染1例、疫学的リンクが不明な患者2例、計7例が発生した。

野外バーベキューでの集団感染
疫学調査に基づく、症例間のリンクを図3に示した。初発例No.1は、横浜市からの旅行者で、8月13日に来県した。8月15日から発熱があったが、8月16日にビーチサイドで行われたバーベキューに参加し、同じグループのNo.2〜6、隣のグループのNo.7、宿泊先のNo.8、地域で接触したNo.9が感染し、合計8名の二次感染者が発生した。No.1は、8月17日に気分不良のため医療機関を受診後に飛行機で帰省したが、発疹が出現したため、8月18日に帰省先の医療機関を受診し、麻疹と臨床診断された。先に本県で受診した医療機関に患者血液が保存されていたため、PCR検査を実施したところ、陽性であった。二次感染者の発生がおさまり、三次感染者の発生を想定していた時期に、患者1例が発生したが、疫学的リンクは不明であった。

実験室診断
検査診断は報告された全症例で実施された。当研究所ではnested RT-PCRとウイルス分離が217例(98.6%)で実施され、医療機関では血清学的検査が57例(25.9%)で実施された。PCR検査では40例が陽性となり、このうち19例(47.5%)でウイルスが分離された。PCR陽性例の遺伝子型は、ワクチン由来と考えられるA型1例、野生株のD5型39例であった。医療機関で実施された麻疹特異的IgM抗体の測定では3例が陽性であったが、このうちの1例(47歳男性)はPCR陰性で、PA法によるペア血清の抗体検査で抗体価の上昇が認められなかったため、麻疹は否定された。

まとめ
2008年は麻疹患者が41例発生し、15歳以上の成人麻疹が全体の約8割を占め、その半数以上が20代前半であった。県外からの移入例は6例発生し、これが感染源となった集団感染が2件発生した。保健所の詳細な疫学調査により、集団発生の感染源や症例間の疫学的リンクが明らかにされ、ライブコンサートの集団感染では初発例から13名が感染し、野外バーべキューのグループでの集団感染では初発例から8名が感染するなど、多くの人に感染させた患者の存在があった。感染が広がった要因として、麻疹ウイルスは感染力が強く空気感染することに加え、感受性者が多く存在していたこと、初発例は成人麻疹であり、小児と比べ活動的で行動範囲も広く、感染を広げるリスクが高いことなどが考えられた。一方、旅行歴がなく、患者との接触が認められない症例も計3例報告されており、他の感染源が存在した可能性が示唆された。

沖縄県衛生環境研究所
平良勝也 岡野 祥 仁平 稔 糸数清正 久高 潤 中村正治
沖縄県北部保健所 多和田 弘 国吉秀樹
沖縄県中部保健所 大嶺悦子 山川宗貞 松野朝之
沖縄県中央保健所 上原健司 宮川桂子
沖縄県南部保健所 中村孝一 島袋全哲
沖縄県宮古保健所 下地 崇 平良セツ子
沖縄県八重山保健所 川上典子 小林孝暢
沖縄県福祉保健部健康増進課 石川裕一 糸数 公
沖縄県はしか"0"プロジェクト委員会 知念正雄

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