0歳児における麻疹の発生状況および免疫保有状況
(Vol. 30 p. 31-32:2009年2月号)

「麻しんに関する特定感染症予防指針[2007(平成19)年12月28日厚生労働省告示第 442号]」に基づき、2008年1月1日より麻疹は感染症発生動向調査による従来の定点把握疾患から全数把握疾患に変更となり、医師は麻疹と診断した患者のすべてを届け出ることが義務付けられた。感染症発生動向調査による2008年第1週〜第52週までの麻疹患者の累積報告数は11,007例であり、このうち0歳児は610例(5.5%)であった(2009年1月21日現在)。麻疹の定期予防接種第1期の対象年齢は、1歳(生後12カ月〜24カ月未満)であることから、0歳児のほとんどは予防接種を受けていない。

0歳児における月齢別麻疹報告数および免疫保有状況
0歳児の各月齢における患者報告数は、月齢が大きくなるにつれて増加しており(図1)、これは母親からの移行抗体による免疫効果が月齢とともに減衰している結果であるが、2008年度感染症流行予測調査においても、ゼラチン粒子凝集法(PA法)による0歳児の麻疹に対する抗体陰性(PA抗体価1:16未満)率は、0〜1カ月齢群で11.1%、2〜3カ月齢群で23.1%、4〜5カ月齢群54.2%、6〜7カ月齢群74.4%、8〜9カ月齢群85.1%、10〜11カ月齢群84.1%であり、月齢とともに高くなる傾向がみられた(2009年1月現在暫定値)。

0歳児における病型別麻疹報告数
0歳児における麻疹患者を0〜5カ月齢群(52例)と6〜11カ月齢群(558例)に分け、病型別に図2に示した。臨床診断例は0〜5カ月齢群で27例(51.9%)、6〜11カ月齢群で329例(59.0%)と、両群で半数以上を占めた。また、0〜5カ月齢群(9例、17.3%)では、移行抗体が残存している影響と考えられる修飾麻疹例の割合が6〜11カ月齢群(21例、3.8%)と比較して高かった。

0歳児の麻疹(検査診断例、修飾麻疹例)における検査別割合
0歳児の麻疹患者の検査診断例は224例、修飾麻疹例は30例であった。感染症法に基づく麻疹の届出基準に示されている検査は、患者の臨床検体からの1)分離・同定による病原体の検出、2)直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出、3)抗体の検出(IgM抗体の検出、ペア血清での抗体陽転または抗体価の有意の上昇)とされているが、検査診断例と修飾麻疹例の合計254例のうち224例(88.2%)はIgM抗体の検出であり、ペア血清による診断も含めると、血清のみを用いた検査は242例(95.3%)であった(表1)。前述の検査方法のうち、健康保険の適用がなされるのは「抗体の検出」のみであることから、「分離・同定」あるいは「PCR法」による検査診断が少ないものと考えられた。

0歳児の麻疹における合併症発生状況
麻疹発生届に合併症の記載があったのは109例(17.9%:0歳児麻疹患者610例中の割合、以下同じ)で、そのうち最も多かった合併症は肺炎の42例(6.9%)、次いで腸炎(下痢と記載された例も含む)の29例(4.8%)、中耳炎の24例(3.9%)であった。また、腸炎と中耳炎が6例(1.0%)、肺炎と中耳炎が5例(0.8%)と、複数の合併症が発生した例、およびクループの合併が3例(0.5%)あったが、脳炎の合併例はみられなかった。

0歳児の麻疹における感染源の内訳
麻疹発生届の感染源(推定あるいは確定)に記載があった201例における内訳を図3に示した。感染源としては、両親が56例(母35例、父21例)と最も多く、次いで保育園・保育所・託児所(29例)、医療機関(29例)、兄弟・姉妹(27例)、親戚(21例)、家族あるいは親戚(同居)(11例)の順であった。両親、兄弟・姉妹、家族あるいは親戚(同居)がすべて患者と同居しているとすると、記載のあった例のうち約半数(94例)は同居者を感染源とする患者であった。不明あるいは未記載例は全体の約2/3(409例)を占めていたが、流行中は感染源の特定が困難であることから、このような結果になったと考えられた。

移行抗体がすでに消失し、定期予防接種の対象年齢に満たない0歳児における麻疹の予防は、緊急避難的に実施される免疫グロブリン製剤の投与、あるいは生後6カ月齢以上でのワクチンの任意接種以外に有効な方法はない。しかし、いずれも確実とはいえず、家族が発症した場合、これらの緊急予防策も間に合わないことが多い。また、予防接種1回世代の母親から生まれた児の増加により、移行抗体の残存期間は図4に示すように年々短縮傾向にあり、0歳児の麻疹を予防するのは、流行を抑制する以外に不可能であると考えられる。0歳児の麻疹患者は流行による被害者であり、2008年には生後1カ月で麻疹に罹患した児が3歳で亜急性硬化性全脳炎を発症した例も報告されていることから(日暮憲道, 他,日本小児科学会雑誌 112: 1831-1835, 2008)、国内における早期の麻疹排除達成が望まれる。そのためには定期予防接種の対象者におけるワクチン接種はもちろんのこと、0歳児と接触する可能性があり、麻疹に対する免疫が不十分な者についても予防接種により発症予防レベルの免疫を獲得しておくことが必要である。

また、0歳児の麻疹患者における検査診断例の割合(約42%)は、修飾麻疹例の割合が高いこともあり、全年齢での検査診断例の割合(約35%)と比較して高いものの、50%に満たない状況であることから、国立感染症研究所および地方衛生研究所では2008年度より麻疹の検査診断体制の強化を図っており、特に麻疹患者との接触歴が明らかでない第1例目は確実に検査診断を行うことが求められている(本号19ページ参照)。

国立感染症研究所感染症情報センター
佐藤 弘 島田智恵 多屋馨子 多田有希 岡部信彦

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