沖縄県宮古島で初めて確認されたつつが虫病
(Vol. 30 p. 17-18: 2009年1月号)

つつが虫病は、ダニ類の中でも微小なツツガムシ類によって媒介される感染症であり、病原体のOrientia tsutsugamushi (Ot)はその幼虫の刺咬によって媒介される。わが国では北海道を除く全都道府県から患者が報告されており、ここ数年は年間300〜400例の患者が毎年報告されている(IASR 27: 27-28, 2006)。沖縄県では、2001年に県内在住の患者1例が報告されているが、このときは旅行歴から県外での感染が推定されており、県内での確実な感染例はこれまで認められていなかった。しかし今回、本県宮古島での感染が確認された症例が発生したので報告する。

患者概要:50歳男性。沖縄県宮古島(図1)在住。職業は農業。発症に先立っての島外への旅行歴なし。2008年6月23日頃より40℃の発熱と全身に発疹があり、6月24日に宮古島の医療機関を受診したところ、肝機能障害を指摘された。6月28日に沖縄本島の医療機関を受診し、熱源精査目的で入院となった。麻疹の疑いもあったが、PCR検査では麻疹陰性であった。7月4日、刺し口と思われる痂皮が左膝の裏側にみつかったため、節足動物媒介性のリケッチア症が疑われた。

血清学的検査:患者から採取された急性期および回復期の血清を用い、間接免疫ペルオキシダーゼ法(IP)によりOtを含む各種リケッチア抗原に対する抗体価を測定した(表1)。その結果、急性期においてはOtのGilliam型にのみIgM抗体が陽性反応を示し、回復期にはOtのほとんどの血清型に対してIgGとIgMの両抗体の陽転が認められ、中でもGilliam型に比較的高い値を示した。したがって、本症例は血清学的につつが虫病と確定診断された。

PCR検査:凍結保存していた急性期の患者血液について、リケッチア感染症診断マニュアル(国立感染症研究所)に基づき、PCR法でOtの56kDa蛋白をコードする遺伝子の検出を行った。1st PCRではプライマー34/55、Nested PCRではプライマー10/11を用いた。Nested PCRによる増幅産物をアガロースゲルで電気泳動した結果、480bp付近に目的のバンドを確認した。この増幅遺伝子断片名をMiyakojimaとし、ダイレクトシークエンスにより塩基配列(420bp)を決定した。DDBJの登録株を用いて分子系統樹解析を実施したところ、Miyakojimaは国内の分離株が形成するいずれのクラスターにも属さず、台湾由来の複数の株と同じクラスターに属し、これらとの相同性は100%一致した(図2)。

宮古島調査:宮古島は、沖縄本島から南西に約300km、ちょうど沖縄本島と台湾の中間に位置する人口約55,000人の平坦な島である(図1)。10月1日と2日に、患者が感染したと推定される農作業場所およびその周辺地域で媒介動物を探査するための調査を実施した。2日間でドブネズミ1個体、クマネズミ2個体、ジャコウネズミ10個体、ホンドイタチ2個体、合計15個体が捕獲された。しかし、これらの野生動物からツツガムシ幼虫は見出されず、血液および臓器に潜むOtについては現在調査中である。土壌についてツルグレン法および地表からの黒布見取法も試みたが、今回はツツガムシは得られなかった。

まとめ:本症例は、発熱・発疹・刺し口などの臨床所見および血清学的検査によりつつが虫病と確定診断された。患者は近年旅行歴がないことから、宮古島でのOt感染が考えられた。感染したOtの血清型は不明であるが、抗体価測定ではGilliam型に比較的高い値を示した。しかし、患者血液から検出された56kDa蛋白遺伝子(プライマー10/11領域)の分子系統解析で、国内のGilliam型が形成するクラスター(JG型)とは別の台湾由来の株と同じクラスターに属し、これらと高い相同性を示した。

今回の調査では、ツツガムシ幼虫は採取されておらず、媒介種はまだわかっていない。調査時期が患者発生から約3カ月が経過していたことに加えて、調査期間が短かったことなどから、媒介種解明に向け患者発生と同時期に再調査する必要がある。

本県におけるつつが虫病の発生は他県に比べ極めて少ないことから、住民や医療機関のつつが虫病に対する意識は低いと推測される。本疾病は、早期に適切な治療を受けない場合、死に至ることもあり、今後沖縄県内の他の地域で患者が発生する可能性も考えられることから、県内の医療機関や住民に対しての啓発が重要と考えられた。

沖縄県衛生環境研究所 平良勝也 岡野 祥 仁平 稔 中村正治 稲福恭雄
大浜第一病院 近藤章之 伊禮史朗 畑 芳夫
大原綜合病院附属大原研究所 藤田博己
沖縄県宮古保健所 下地 崇 砂川洋子 宮城鈴代 下地久代 平良セツ子 上原真理子
沖縄県中央保健所 上原健司 宮川桂子
沖縄県福祉保健部健康増進課 糸数 公
福井大学 矢野泰弘 高田伸弘
愛知医科大学 角坂照貴
鹿児島県環境保健センター 本田俊郎
国立感染症研究所 安藤秀二

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