無菌性髄膜炎からのエンテロウイルス検出状況、2004〜2008年―愛知県
(Vol. 30 p. 6-8:2009年1月号)

愛知県では感染症発生動向調査事業において名古屋市をのぞく県内全保健所管内から31医療機関の協力を得て、感染性胃腸炎、手足口病、無菌性髄膜炎(AM)などの5類定点把握対象疾患患者を中心に年間1,000〜1,500名の病原ウイルスを調べている。エンテロウイルスの調査においては、培養細胞を用いて分離したウイルス株を血清中和反応により同定・型別するのが一般的である。近年、標準株の塩基配列が明らかとなり、RT-PCR法による遺伝子の増幅、およびその配列の比較から血清型の同定が可能となった。愛知県では2004年からヘルパンギーナ、手足口病、AM等エンテロウイルスを原因とする主な疾患について細胞培養によるウイルス分離同定に加え、RT-PCR法による遺伝子検出と塩基配列の比較による同定を併用している。今回はAMについてその結果をまとめた。

2004年1月〜2008年9月までの約5年間に、AM患者338名から採取された460検体(髄液277件、糞便112件、咽頭ぬぐい液64件、その他7件)を対象とした。ウイルス分離はVero、HeLa、およびRD-18S細胞を用いて行った。エンテロウイルス遺伝子の検出にはIshikoら 1)が報告したVP4領域を標的とするRT-PCR法を用いた。ウイルスの同定型別は中和法で行った。RT-PCR法のみ陽性の検体はその塩基配列を決定し、BLAST検索で血清型を推定するとともに、同時期に分離同定された同一血清型株の塩基配列と比較して99%以上の相同性を確認した。同時期に分離株の得られなかった血清型の検体については、さらにObersteら 2)の方法によりVP1領域を増幅し、その塩基配列から血清型を決定した。

2004年1月〜2008年9月までに供試されたAM患者338名の発症月を図1に示した。毎年7月をピークに6〜8月に多くの患者検体が採取されている。これら患者338名中126名(37%)からRT-PCR法によりエンテロウイルスが検出され、109名(32%)からはウイルス分離も陽性であった。表1にウイルス検出状況を年別にまとめた。患者数が最多の2004年にはエコーウイルス(E)6型が22名、コクサッキーウイルスB(CB)1型が13名から検出されている。2005年は患者数が36名と少なく、ウイルスは8名のみから検出された。2006年には、E18の8名に次いで、この年手足口病患者から多く検出されたエンテロウイルス71型(EV71)が4名から分離された。2007年にはCB5が31名(39%)から検出された。今年(2008年)は9月末現在E30が12名から検出されている。検体別にみると、髄液は277件中84件(30%)から、糞便は112件中50件(45%)から、咽頭ぬぐい液は64件中23件(36%)からエンテロウイルスが検出された。

細胞培養で陽性の検体はすべてRT-PCR法でも陽性であった。表2に細胞培養法とRT-PCR法によるウイルス検出数を、検体別とウイルス別に比較した。全体では細胞培養法で陽性であった検体が117件に対し、RT-PCR法では158件と1.4倍の検出数であった。検体別では、髄液は細胞培養で52件に対しRT-PCR法で84件(1.6倍)、糞便は43件対50件(1.2倍)、咽頭ぬぐい液は21件対23件(1.1倍)であった。ウイルス別に比較すると、検出数の多かったウイルスではE30が細胞培養で8件、RT-PCR法で19件(2.4倍)であった。以下、E18が4件対9件(2.3倍)、CB4が3件対7件(2.3倍)、CB1が20件対27件(1.4倍)、CB5が42件対47件(1.1倍)、E6が28件対30件(1.1倍)の順で、RT-PCR法が細胞培養法より高率に陽性であった。

愛知県では、1998年に無菌性髄膜炎患者304名中145名(48%)から分離されたE30の流行があった。1991年にもこれに匹敵する規模のE30流行(161名)があり、それらに次ぐものとして1986年のE7(87名)、1981年のCB2(63名)、2002年のE13(53名)、1989年のCA9(48名)、1983年のE9(36名)を経験しているが、2007年のCB5(31名)の陽性者数はそれらに次ぐものであった。CB5はしばしば分離されるが、本県においても1980〜2003年の24年のうち16年で1株以上分離している。そのうち1999年、1987年、および1984年はウイルス分離患者が9名〜22名と比較的多数であった。2007年の流行は1999年以来8年ぶりで、CB5としては1984年を上回り、過去最多の検出数であった。

2004年に流行が認められたE6は、1980年以降に3年、今回と同様20名前後のウイルス陽性者が記録されている。2004年(13名)と2008年(7名)に検出されたCB1は、過去1986年(4名)、1992年(5名)、および1997年に10名前後の患者から分離されているのみで、流行しても分離数はE6よりさらに少ないものであった。今年(2008年)流行が認められたE30は過去に比較して分離陽性患者数が非常に少なかった。

エンテロウイルス検索においてRT-PCR法は細胞培養法よりも検出感度が高く、特に髄液からのウイルス検出に有用であった。今回、検出数が多かったウイルスの中では、CB5やE6(各1.1倍)と比べてE30(2.4倍)やE18(2.3倍)検出において、RT-PCR法の細胞培養法に対する優位性が明らかであった。流行株により細胞培養の検出感度が異なるためと思われる。

 文 献
1) Ishiko H, et al ., J Infect Dis 185: 744-754, 2002
2) Oberste MS, et al ., J Clin Microbiol 38: 1170-1174, 2000

愛知県衛生研究所生物学部ウイルス研究室
山下照夫 伊藤 雅 水谷絵美 藤原範子 皆川洋子

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