夏季に発生したノロウイルスを原因とする集団嘔吐下痢症事例―滋賀県
(Vol. 29 p. 342: 2008年12月号)

滋賀県長浜保健所管内で夏季にノロウイルス(NV)を原因とする集団嘔吐下痢症事例が発生したので、その概要を報告する。

2008年9月2日、長浜保健所管内の飲食店を利用した4家族のうち、複数人が嘔吐・下痢などを呈しているとの連絡が保健所に入った。保健所が調査したところ、4家族は同じ集合住宅に住む友人同士であり、8月31日に同集合住宅近くの飲食店で一緒に昼食をとり、9月1日12:00〜2日13:00にかけて4家族13人中3家族7人が発症していた。4家族の共通食事はこの飲食店でとった昼食のみであり、その前後における共通の外食、行動等はなかった。

患者7名および調理従事者3名の糞便についてリアルタイムPCR法によりNVの検査を実施したところ、患者便7検体すべてでNV GIIが検出され、一方、調理従事者便からNVは検出されなかった。検出されたNVのCOG2F/G2-SKR増幅領域についてダイレクトシークエンスを行った結果、7検体の配列はすべて一致し、GII/6類似株に分類された。患者便7検体のうち、子供から採取された4検体についてはロタウイルスについても調べたが不検出であり、患者便および調理従事者便ともすべてにおいて食中毒原因菌は不検出であった。

保健所の調査の結果、患者7名のうち子供1名(1歳)が会食当日の3日前から下痢をしていたことが判明した。さらに、会食は近接した3テーブルで行われたが、発症者は中央のテーブルに着席した者に集中していた。この会食の間に何者かが嘔吐または下痢をして会食場所が汚染されたといった出来事は確認されていないことから、初発の子供を先行感染として会食時の何らかの接触により感染が広がったものと考えられた。これらのことに加え、調理従事者からはNVが検出されなかったこと、飲食店を利用した他のグループからの苦情がないことなどから食中毒としての断定に至らなかった。

滋賀県内では、6月にNVを原因とする集団感染症事例が発生したが、それ以後のNV集団感染事例は確認されず、同様に、今回の事例後も集団感染は発生しておらず、本事例は夏季に単発的に発生した事例であった。NV感染の流行期は一般的に10月下旬頃からと言われているが、非流行期にも全国的に集団あるいは散発事例において検出報告があることから、今後のウイルスの動向に注目する必要がある。また、感染の条件が整えばいつでも集団感染が起こりうるため、手洗いの徹底など基本的な対策が常日頃から重要であることを広く周知する必要がある。

滋賀県衛生科学センター微生物担当
田中千香子 大内好美 南 祐一 松本文美絵 藤田直樹
滋賀県長浜保健所健康衛生課
東野 浩 山田 悟 山田 強 秋山智子 徳地 治

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