2008年夏季に保育園で集団発生したアデノウイルス8型による流行性角結膜炎−神戸市
(Vol. 29 p. 346-347: 2008年12月号)

2008年6月5日、神戸市長田区にある保育園において、1歳児が結膜炎を発症した。この第1例を診察した眼科医によって「アレルギー性結膜炎で感染性は無い」と診断され、児は登園を継続した。6月10日同じクラスの5名が同様の症状を呈した。6月17日同5名の保護者のうち4名が発症した。6月18日、3、4、5歳クラスにおいても有症者が出た。

6月30日、保育園の嘱託眼科医による定例の眼科健診の際、流行性角結膜炎(EKC)を強く疑われる症状を呈する園児数名と保育士2名が存在した。保育園は感染している園児と保育士は登園をしないよう医師から指示を受け、その旨保護者に説明を行った。しかしながら、2カ所の眼科を受診した園児はすべて「アレルギー性結膜炎で感染性無し」と診断され、登園を継続した。以降感染は増え続け、6月〜7月初旬まで30数名(全園児数106名)の園児が結膜炎症状により休んだ。8月の盆休みに多くの園児が休んで以後、流行は終息した。

研究所は嘱託眼科医よりウイルス分離用の検体として、保育園と関係があると考えられるEKC 患者15名(園児6名、家族6名、保育従事者2名、その他1名)の結膜ぬぐい液の提供を受けた(表1)。うち園児3名は有熱であった。患者15名の結膜炎症状は、全症例ともほぼ1カ月で治癒したが、主に大人を中心に、発症後10日〜2週間後に角膜実質層に混濁を認めた。うち、2症例については11月の段階においても角膜所見がとれず治療中である。

ウイルス分離はFL、HEp-2、Vero-E6、RD-18Sの細胞を使用し4代目まで継代を行った。15名のうち4名の検体からアデノウイルス8型を分離同定した。細胞感受性はVero-E6が一番良く、RD-18Sからは分離できなかった。分離された時期は継代2代目以降であった。分離ウイルスの同定は国立感染症研究所分与の抗血清で実施した。また、10患者の検体よりQIAamp DNA Mini kit(キアゲン)を使用してDNAを抽出した後、アデノウイルスのヘキソン遺伝子領域内(139塩基)を増幅するPCR法を実施した。プライマーはHex3.Hex4(Echavarria M, et al ., JCM: 3323-3326, 1998)を使用した。10名のうち8名の検体からアデノウイルスのDNAが検出された。

EKCの症状は、瞼結膜の乳頭増殖や濾胞形成、耳前リンパ節腫脹といった特徴を示すが、アレルギー性結膜炎とも似通っている。EKCの迅速診断のため、さらには感染の拡大の予防としても、医療機関におけるアデノウイルス抗原検出キットの使用が有効であると考えられる。

神戸市環境保健研究所 秋吉京子 須賀知子
神戸市保健所予防衛生課
福井クリニック 福井きよか

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