由来が同一と推察された細菌性赤痢による食中毒事例および赤痢患者発生事例−福岡市
(Vol. 29 p. 342-343: 2008年12月号)

2008年7月中旬以降、福岡市内において海外渡航歴のない細菌性赤痢患者が相次いで発生したので概要を報告する。

2008年7月19日〜8月16日の間に、Shigella flexneri 3bによる散発事例を除いて、S. sonnei による集団感染事例および散発事例が複数件発生した。集団感染事例については、原因施設として飲食店が関与しており、赤痢菌による食中毒と断定された。これら集団感染事例の原因施設において使用食材を詳細に調査し、仕入れ先等の遡り調査も実施された。表1に赤痢菌検出状況(2008年7〜8月)を示した。事例1〜3が発生した時点で福岡市内におけるDiffuse Outbreakの可能性も示唆され、関係部局と疫学的解析等についての協議および九州内の各地研への情報収集をしている最中に、事例4〜6が相次いで発生した。これにより、福岡市では細菌性赤痢対策会議を設置し、情報の共有、調査方法、データ解析等の協議を行うとともに、国立感染症研究所実地疫学専門家チーム(FETP)の派遣要請を行った。

検査材料は、それぞれの事例に関与した有症者、喫食者、および接触者等の便が延べ637件、生け簀の水槽水、地下タンクの水および井戸水11件、食品(参考品等)40件、ふきとり17件である。また、喫食状況、原因施設提供食材および仕入れ先等の遡り調査により、共通食材として同一ロットの食材(輸入冷凍鮮魚介類)が判明したことから、今回の共通食材とはロットが違うものの、同一業者が仕入れ、鮮魚市場に保管されていた輸入冷凍鮮魚介類の収去27件についても赤痢菌の検査を実施した。

検査および同定方法は常法に従い実施した。ヒト糞便に関して、TSB(Tryptic Soy Broth)37℃、6時間培養後、この培養液でPCRによるinvE ipaH 遺伝子の検出も試みた。血清型は赤痢菌免疫血清を用いて行い、薬剤感受性試験はSensi-Disk(Kirby-Bauer法)により8種類の薬剤(CP、KM、SM、NFX、ABPC、FOM、NA、TC)について実施した。また、分子疫学的解析は制限酵素Xba Iを用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)により行った。

ヒト糞便に関して、TSB(Tryptic Soy Broth)37℃、6時間培養後、この培養液でPCRによるinvE ipaH 遺伝子の検出を試みた結果、遺伝子が検出されたにもかかわらず、赤痢菌を分離することができなかったものが、4検体にみられた。事例4(S. flexneri 3b)を除く他の事例から検出された赤痢菌はすべてS. sonnei (D群:I相)で、それぞれの代表株について、8種類の薬剤感受性試験はSM、ABPC、NAの3薬剤に耐性の同一パターンが得られた。また、複数の飲食店での事例から検出された赤痢菌のPFGEは同様のパターンを示した(図1)。

今回、2008年7月19日〜8月16日の間に、集団感染事例および散発事例における赤痢菌(S. sonnei )感染者は最終的には38名となった。これら一連の複数事例で検出された赤痢菌のPFGEは同様のパターンを示し、発症者に供された共通食材は輸入冷凍鮮魚介類であり、疫学調査の結果からも同食品が感染源であると示唆された。しかしながら、食品等の検査からは赤痢菌は検出されず、原因の特定には至らなかった。本市の情報に基づき、関連製造施設から輸入した冷凍鮮魚介類について厚生労働省より輸入食品に対する検査命令が発表されるに至った(8月28日、http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/08/h0828-3.html)。

福岡市保健環境研究所
尾崎延芳 眞子俊博 宮尾義浩 財津修一 川崎 恵 江渕寿美 吉田眞一

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