8月に発生したA/H3N2亜型インフルエンザによる集団かぜ事例―横浜市
(Vol. 29 p. 312-314: 2008年11月号)

2008年8月に横浜市内の全寮制訓練校において集団かぜが発生した。発熱症状45名のうち、教員1名および従業員2名を含む12名がA型インフルエンザと診断された。教育生3名と従業員2名からリアルタイムPCRでAH3遺伝子が検出され、そのうち2名からA/H3N2亜型インフルエンザを分離したので報告する。

発生状況
同校には教育生144人と教員30人の合計174人が在籍し、食堂および庁舎管理従業員14名が従事している。年齢構成は18歳〜28歳であり、それぞれ4クラス編成で授業を受け、6人部屋の寮で24時間生活をともにしていた。お盆休み明けの8月18日より1日平均2〜3人の発熱患者が発生し、28日に4人がA型インフルエンザと診断されたことから、インフルエンザの集団発生が疑われた。28日午後〜31日まで授業を中止したが、その後、教員と従業員を含む8人がインフルエンザと診断され、9月3日に発症した患者を最後に終息した。

横浜市健康福祉局では発生動向を把握するため、検体採取の依頼とともに調査票シートを配付し、8月18日以降37℃以上の発熱があった45人について調査した。インフルエンザと判明した28日以前の38℃以上の発熱患者とインフルエンザ患者について発生状況をみたところ、最初の発熱患者は3クラスに集中しており、同一階の居住区域よりもクラスの中での広がりがみられ(図1)、発症者のピークは28日であった(図2)。

ウイルス検査結果表1
授業中止にともない寮が閉鎖されたため、自宅において鼻かみ検体(鼻汁)の採取を依頼した。検査した5検体すべてからリアルタイムPCRでインフルエンザAH3亜型のHA遺伝子が検出され、また、MDCK細胞を用いたウイルス培養では2検体からA/H3N2亜型ウイルスが分離された。分離株について国立感染症研究所より配付された2007/08シーズン用同定キットを用い、0.75%のモルモット血球で赤血球凝集抑制(HI)試験を実施した。分離株2株は抗A/Hiroshima(広島)/52/2005(H3N2)血清(ホモ価1,280)に対しHI価40〜80、抗A/Solomon Islands/3/2006(H1N1)血清(ホモ価640)、抗B/Shanghai(上海)/361/2002血清(ホモ価640)、および抗B/Malaysia/2506/2004血清(ホモ価640)に対しては、いずれもHI価<10であった。

HA遺伝子についてダイレクトシークエンスを行い、NJ法により系統樹を作成した(図3)。2007/08シーズンに分離したAH3亜型ウイルスは、K173Q変異したグループとL3F、K173N変異したグループに分かれたが、2008年8月の集団分離株は前者に属していた。また、抗インフルエンザ薬耐性に対する遺伝子検査ではアマンタジン耐性、ノイラミニダーゼ阻害薬感受性であった。

今回の事例では家族内感染の可能性や海外渡航歴はなく、感染源は不明である。横浜市ではAH3亜型ウイルスは2007/08シーズンの後半に14株分離されたのみで大きな流行はみられなかったが、抗原性や系統樹解析から2006/07シーズン以降変異が進んでおり、次シーズンの流行が危惧される。2008年は6月に青森県(IASR 29: 228-229, 2008)や岡山県(IASR 29: 253-254, 2008)でAH3亜型ウイルスによる集団発生が、また、7月には千葉県(IASR 29: 254-255, 2008)でB型ウイルスによる集団発生が報告されている。夏季における発熱患者発生に関してはインフルエンザも疑うことを施設管理者や医療機関に周知し、早期に感染拡大防止策をとることが重要と思われた。

横浜市衛生研究所検査研究課
川上千春 七種美和子 百木智子 池淵 守 土田賢一 蔵田英志
横浜市健康福祉局健康安全部健康安全課 岩田眞美 五十嵐吉光

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