沖縄県における過去3年間のRSウイルス感染症流行状況
(Vol. 29 p. 278-279: 2008年10月号)

RSウイルス(RSV)感染症は、乳幼児に好発する代表的な急性呼吸器ウイルス感染症の一つで、わが国では冬季の発生報告が多い。沖縄県は地理的に亜熱帯地域に位置し、RSV感染症の発生状況は全国のそれとは異なっている。本稿では2006年3月〜2008年8月の間に感染症発生動向調査に基づいて沖縄県内34医療機関から報告されたRSV感染症の発生状況と、2008年に患者咽頭ぬぐい液から分離されたRSVの遺伝子解析結果について報告する。

発生状況
2006、2007および2008年の患者報告総数は、それぞれ 448人、 674人および 520人で、最も報告数の多かった月は、2006年が8月、2007年が6月、2008年が7月であり、いずれの年も夏季にピークを示した。特に2008年7月は定点当たり 1.5人で、過去2年と比して高い数値を示した。一方、全国的に報告数の多い冬季の報告数は少なく推移した(図1)。調査期間中3年間の患者総数は1,642人で、その発生年齢層は乳幼児に集中し、1歳未満が49%、1歳児が39%で、これらの年齢層で全体の88%を占めていた。

わが国(温帯地域)における本症の流行は、晩秋〜春季にみられ、夏季には大きな流行はみられない。一方、東南アジアなどの熱帯地域での流行は雨季に多発し、季節に関連していることが報告されている。亜熱帯地域に属する沖縄県で雨季/乾季の明確な区別はないが、比較的降雨量の多い夏季に流行する様相は東南アジア地域の流行状況に類似していた。

分離株の遺伝子解析
遺伝子解析は、2008年6月および7月に急性上気道炎または下気道炎と臨床診断された患者のうち、迅速診断キットによりインフルエンザウイルス(−)と判定された25例の咽頭ぬぐい液から、HEp-2およびVero9013細胞を用いて分離されたRSV 6株のうちの4株(080218、080220、080230および080231株)について実施した。解析はRSV検査マニュアル(国立感染症研究所、http://www.nih.go.jp/niid/reference/RS-manual.pdf)に従ってN遺伝子を標的としたRT-PCRを実施し、相同性および分子系統樹解析を行った。分離された4株それぞれのN遺伝子570bpにおける塩基配列の相同性は、99.5〜 100%の高い相同性を示した。また、分子系統樹解析の結果、4株すべてサブグループAに分類された(図2)。2008年夏季に本県で流行したRSVは分子遺伝学的に近縁のウイルスの流行であったことが推察された。

総 括
本県における2006〜2008年の発生状況を全国の発生状況と比較検討した結果、本県では全国の流行状況とは大きく異なり、夏季に流行する様相が特徴的であったことから、今後特に同季の発生動向には注意が必要であろう。あわせて乳幼児では重症化することもあることから、医療機関や県民への情報提供や注意喚起は重要である。

沖縄県衛生環境研究所
中村正治 糸数清正 平良勝也 玉那覇康二 稲福恭雄
沖縄県感染症情報センター 古謝由紀子 桑江なおみ
あおぞら小児科 川木達能
国立感染症研究所感染症情報センター 木村博一
国立感染症研究所ウイルス第三部 野田雅博

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