Tdapワクチンによる高校での百日咳集団発生のコントロール、2006年9 月〜2007年1 月―米国・イリノイ州クック郡
(Vol. 29 p. 258-259: 2008年9月号)

2005年まで米国には思春期以上の年齢を対象とする百日咳のワクチンがなく、百日咳発生時の対策としては早期検出と濃厚接触者への抗菌薬投与しかなかった。

2006年にACIP(Advisory Committee on Immunization Practices)はすべての思春期以上の年齢の者に1回のブースターとしての接種を推奨した。本レポートはイリノイ州クック郡の高校でおきた百日咳の集団発生をコントロールする戦略のために用いられた成人型破傷風・ジフテリア・百日咳混合ワクチン(Tdap)の接種率向上の報告である。

2006年9月6日、クック郡公衆衛生局(CCDPH)は17歳の高校生における百日咳の報告を受けた。初発例は同胞から感染した高校生で、PCR により確定され、当局に報告された9月6日には12年生の生徒と保護者・高校職員に対して、持続する咳症状があった場合には受診をすること、またTdapワクチンの接種対象者へ接種を促す文書が配布され、地域の医師31名にもファクシミリで情報提供が行われた。事例発生時、高校には生徒4,154名、職員651名が在籍していた。

10月31日までに高校で10例が百日咳と診断されており、当局による積極的な症例探索が開始された。11月1日、CCDPHは31人の医師に電話をし、Tdapワクチンの在庫があるかを確認し、咳のある学生が再登校する際に証明書を持たせるように依頼した。11月3日、明確な原因が明らかでない持続性の咳を有する学生と職員は、医師の診察を受けるまで授業・課外活動に不参加とした。また、接種可能な学生と職員にはTdapワクチン接種を受けることの重要性が併せて強調された。

しかし、医師らによる複数回の呼びかけにもかかわらず、受診してTdapを接種する生徒は増えなかった。また、国内における成人用Tdapの不足が障害となっていた。

11月16日に11・12年生と職員を対象に行われた匿名の調査の結果、63.3%の回答率が得られた中で、Tdap接種率は生徒においては30%、スタッフでは17%と判明した。

11月6日〜12月1日にかけて、新たに16症例が把握され(13例は検査による確定)、当局は保護者に対して11回に及ぶ手紙を出したが、Tdapワクチン接種につながらなかった。このためCCDPHは、冬休みに入る2週間前の12月5日〜8日にかけて学校内にTdapワクチンクリニックを設置し、保護者の同意書を持参した生徒を対象にTdap接種を行った。この4日間で1,084名の生徒(26.1%)、 416名のスタッフ(63.9%)がTdap接種を受け、費用はすべてクック郡が負担した。

集団発生前の生徒の接種率は16.4%であったが、学校での集団接種後は65.0%(10年生)〜71.0%(9年生)であった。ワクチンキャンペーン終了時、1,331名(32%)が未接種であったが、558名(42%)は2年以内のTd接種があり接種対象外で、接種対象でありながら未接種なのは707名(20%)であった。最後に報告された2症例は12月12日と19日で、それぞれ学校で接種を受けた生徒であった。発症日はともに接種から5日目で、免疫が作られる前であった。

今回の集団発生において把握された36例の内訳は、33名が学生、1名が職員、2名が患者家族であり、入院症例はなかった。確定例についてみると、対策開始前は咳症状発症後から診断まで18.3日(1〜58日)であり、対策開始後は4.6日(1〜14日)であった。発症率は9年生0.4%、10年生1.2%、11年生1.1%、12年生0.7%、職員0.2%であった。

(CDC, MMWR, 57, No. 29, 796-799, 2008)

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