The Topic of This Month Vol.29 No.8(No.342)

細菌性食中毒 1998〜2007年
(Vol. 29 p. 213-215: 2008年8月号)

わが国では、食品衛生法に基づき、食中毒患者もしくはその疑いのある者を診断した医師は直ちに最寄りの保健所長に届出を行うことが義務付けられている。保健所長は医師の届出を受けたときその他食中毒患者が発生していると認めるときは、速やかに都道府県知事に報告するとともに、調査しなければならない。

1997年5月30日の食品衛生法施行規則の改正で小型球形ウイルス(2003年8月29日同規則改正でノロウイルスに名称変更)およびその他のウイルスと腸管出血性大腸菌(EHEC)が、1999年12月28日同規則改正でコレラ菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌が食中毒事件票に病因物質として明示された。また、EHEC、コレラ菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌が病因物質である場合は、感染症法に基づく感染症発生動向調査における全数把握の3類感染症としての届出も医師に義務付けられている。

1.細菌性食中毒発生状況:厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課が公表している食中毒統計によれば(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html)、細菌性食中毒全体としては、1998年の事件数2,620件、患者数36,337人をピークに、以降2007年まで減少傾向が続いており、2006年には患者数が9,666人と1万人を下回った(表1)。特に腸炎ビブリオおよびサルモネラ属菌による食中毒の減少傾向が顕著であり(IASR 27:191-192, 2006)、病原大腸菌による食中毒も減少している(図1図2)。これに対し、カンピロバクター・ジェジュニ/コリによる食中毒事件数は1997年以降1人事例の届出増加により大きく増加しているが、患者数の大きな増加はみられていない(IASR 27:167-168, 2006)。ぶどう球菌による食中毒患者数は2000年に大規模集団事例のため急増したが、その後は1,000〜2,000人で推移しており、事件数も大きな増加はない。EHEC、ウェルシュ菌、セレウス菌による食中毒も患者数の増減はあるものの、事件数では大きな増加はない。ただし、感染症法に基づくEHEC感染者数は毎年EHEC食中毒患者数を大きく上回っている(IASR 29: 117-118, 2008)。原因食品の特定が困難な事例が多く、特に患者1人の場合、食中毒の届出が少ないと考えられる。

2.大規模集団発生事例:大規模事件の目安となっている患者数500名以上の細菌性食中毒事件は、1998〜2007年に26件発生している(表2)。起因菌はサルモネラ属菌8件、ウェルシュ菌6件、腸炎ビブリオ5件、病原大腸菌4件、ぶどう球菌2件、セレウス菌1件であった。2002年以降、ウェルシュ菌による大規模食中毒が多いのが目立つ(本号4ページ6ページ6ページ)。

多数の自治体で患者が発生した広域事例としては、(1)1999年に発生した全国に流通するイカ菓子によるサルモネラ属菌の事例(患者は子供を中心に1,634人)(IASR 21: 162-163, 2000)、(2)2000年6月に発生した加工乳によるぶどう球菌の事例(戦後最大の患者数13,420人)(IASR 22: 185-186, 2001)、(3)2007年9月に発生した低塩分のイカの塩辛による腸炎ビブリオの事例(患者が1都5県6市の12自治体で計620人)(本号7ページ)があった。

また、2007年には、患者数は500人以下ではあるものの、EHECによる食中毒として規模の大きな、学校食堂で提供された食事(患者数445人)(IASR 29: 120-121, 2008)や仕出し弁当(患者数314人)(IASR 29: 122-123, 2008)の事例があった。

3.新たに注目されている食中毒起因菌
1)リステリア・モノサイトゲネス:ナチュラルチーズなどの乳製品、肉製品が原因食品とされる。わが国でも輸入チーズから菌が検出され、患者が発生する前に製品が回収された事例がある。2001年から行われた厚生労働省研究班の調査では、年間平均83例の散発患者が報告されている(本号10ページ)。集団感染事例は2001年に北海道で発生した国産ナチュラルチーズを原因食品とする事例が唯一報告されている(Int J Food Microbiol 104: 189-196, 2005)。

2)エンテロバクター・サカザキ:海外では乳児用調製粉乳を原因とする乳児の感染発症が73事例、死亡例は27人の報告があり、汚染度の高い製品の回収が行われた事例もある(本号11ページ)。なお、わが国では粉ミルク以外からの感染とみられる事例が1例報告されているのみである(2007年周産期新生児学会報告)。厚生労働省は世界保健機関(WHO)/国連食糧農業機関(FAO)のガイドラインに基づき(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/03.html#3-7)。母子健康手帳の任意記載様式に「調乳には一度沸騰させた70度以上のお湯を使うよう」勧める注意書きを2008年4月配布分から記載している(http://www.mcfh.or.jp/jouhou/fukudokuhon/70-71.html)。

終わりに:細菌性食中毒の発生件数は、最近減少傾向にあるが、広域事例が発生しており、毎年のように死亡例も発生しているので、油断は禁物である。食品の製造、流通、販売業者、消費者は食品衛生管理を徹底することが必要である。また、原因が解明できずに食中毒と断定されない有症苦情事例は届出されている食中毒事例より多いと推定される。病原性大腸菌の病原因子の検索を実施している地研・保健所は、一部に限られており(本号12ページ14ページ15ページ)、原因究明のための調査体制、検査体制の確保が望まれる。

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