自衛隊関連施設における腸炎ビブリオによる食中毒事例について―横須賀市
(Vol. 29 p. 219-221: 2008年8月号)

2007年9月10日〜15日にかけて自衛隊関連4施設において、イカ塩辛を原因食品とする腸炎ビブリオによる食中毒事例が発生したので概要を報告する。

9月10日護衛艦A、9月14日護衛艦B、9月15日護衛艦Cおよび第二術科学校において食中毒症状を呈している旨の連絡が、当該施設および自衛隊横須賀病院から保健所生活衛生課にあった。

検査材料は護衛艦Aが有症者便(自衛隊横須賀病院入院)6件、水および食品(横浜ドックハウス内厨房)11件、護衛艦Bは有症者便11件、調理従事者便11件、厨房ふきとり8件、食品残品(含イカ塩辛1件)69件、護衛艦Cは有症者便(自衛隊横須賀病院入院)2件、第二術科学校は有症者便18件、調理従事者便8件、厨房ふきとり8件、食品残品(含イカ塩辛1件)51件である。また喫食状況等の情報からイカ塩辛が原因食品ではないかと推測されたため、当該施設および発症者の出ていない護衛艦に保存されていたイカ塩辛(11隻の護衛艦B、D〜Mおよび第二術科学校)延べ15件も追加搬入された。

同定方法は、常法に従い実施した。イカ塩辛については、アルカリ性ペプトン水および食塩ポリミキシンブイヨンからDynabeads M-280 Sheep anti-Rabbit IgGと腸炎ビブリオ免疫血清K6を用い集菌操作を行った後、上記方法に準じた。血清型は腸炎ビブリオ免疫血清KおよびOを用いて行い、耐熱性溶血毒(thermostable direct hemolysin; TDH)、耐熱性溶血毒類似毒(TDH-related hemolysin; TRH)の検出をPCR法により行った。分子疫学的解析は制限酵素Sfi I、Not Iを用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)により行った。またロットの異なるイカ塩辛5検体の塩分濃度もイオンクロマトグラフィーで測定した。

結果は護衛艦Aの有症者便(自衛隊横須賀病院入院)5件、護衛艦Bの有症者便6件、護衛艦Cの有症者便(自衛隊横須賀病院入院)2件、および第二術科学校の有症者便17件より腸炎ビブリオ(以下菌名略)O3:K6 TDH(+)が検出された。また食品においては、保存食のイカ塩辛より、O3:K6 TDH(+) 3件(護衛艦B、D、第二術科学校)、O3:K6 TDH(-) 3件(護衛艦E、F、G)、O3:K6 以外 TDH(-) 1件(護衛艦H)が検出された。また第二術科学校の食品残品からもO3:K6 以外 TDH(-)が1件検出された。TRHはすべて陰性であった。調理従事者便、イカ塩辛以外の食品・水、ふきとりからは腸炎ビブリオは検出されなかった。PFGEの結果を、図1図2に示した。制限酵素Sfi I、Not IともにO3:K6 TDH(+) 33株は同一の泳動パターンを示したが、O3:K6 TDH(-) 3株、O3:K6以外TDH(-)2株は前者とは異なった泳動パターンを示した。塩分濃度は3.4〜5.1%(平均 4.2%)と低かった。

上記に示した有症者の便およびイカ塩辛からのO3:K6 TDH(+)の検出状況、ならびにPFGEの泳動パターンより、今回の事例はイカ塩辛を原因食品とする食中毒事例と判断される。

またイカ塩辛の塩分濃度は平均 4.2%と低く、護衛艦DにおいてO3:K6 TDH(+)がイカ塩辛で陽性であったにもかかわらず、発症者がいなかった。このことから食中毒の発生にはイカ塩辛の保存状態等が関与していることが示唆される。

本事例は9月19日に行政処分・回収命令が発せられたが、10月29日には12自治体、患者数595名に広がり、12月10日には“低塩分塩辛の取り扱いについて”の通知が出されるに至った(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/kanshi/dl/071221-2.pdf)。

横須賀市健康安全科学センター 天野 肇 山口純子

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