仕出し弁当が原因となったウェルシュ菌による大規模食中毒事例−岐阜県
(Vol. 29 p. 218-218: 2008年8月号)

はじめに
2007年9月、M町で開催された敬老会に参加し仕出し弁当を食べた人たちの間で、ウェルシュ菌による大規模な食中毒が発生したので、その概要について報告する。

1.事件の発生
2007年9月18日、県内の町役場から管轄保健所に、9月16日および17日に開催された町内の敬老会で仕出し弁当を食べた者が、下痢等の症状を呈している旨、連絡があった。

保健所が調査をしたところ、9月16日および17日に、昼食として市内のB飲食店が製造した仕出し弁当を食べた8グループ1,114人のうち、8グループ493人(44.3%)が、16日〜18日にかけて、下痢、腹痛等の食中毒症状を呈し、うち115人が医療機関を受診していたことが判明した。潜伏時間は1〜36時間(平均13.9時間)であった。主な症状は下痢(96%)、腹痛(57%)であり、発熱や嘔吐はほとんどみられなかった。患者らに共通する食事が敬老会の昼食の仕出し弁当に限られることから、B飲食店の仕出し弁当を原因とする食中毒事件と断定された。

2.食中毒起因菌の調査
食中毒起因菌の検査は、糞便28検体[患者19、調理従事者9(すべて無症状)]、食品残品(以下、食品)20検体、施設のふきとり8検体について行われた。その結果、糞便24検体(患者18、従事者6)からウェルシュ菌が分離された。このうち患者由来株すべて、および従事者由来6株中1株のウェルシュ菌からエンテロトキシン遺伝子(cpe 遺伝子)が検出された。食品からはウェルシュ菌は分離されなかったが、増菌培養液においてガスの発生が見られた食品2検体(煮物)について、増菌培養液よりDNAを抽出しPCRを行ったところ、この2検体からcpe 遺伝子が検出された。ウェルシュ菌以外にも、黄色ブドウ球菌[患者5検体(以下、検体省略)、従事者4]、セレウス菌(患者2、従事者1、食品4)、カンピロバクター(患者1、従事者3、食品5)およびサルモネラ(従事者1)が分離された。施設のふきとり検体からは食中毒起因菌は分離されなかった。

患者および従事者から分離されたウェルシュ菌は、デンカ生研の『耐熱性A型ウェルシュ菌免疫血清「生研」』を用いたHobbsの血清型別では型別不能であったため、患者由来cpe 遺伝子(+) ウェルシュ菌7株、従事者由来cpe 遺伝子(+) ウェルシュ菌1株、および従事者由来株cpe 遺伝子(-) ウェルシュ菌1株の計9株について、TW血清型別を東京都健康安全研究センターに依頼した。その結果、患者および従事者から検出されたcpe 遺伝子(+) ウェルシュ菌8株の血清型はすべてTW27で一致し、従事者から検出されたcpe 遺伝子(-) の1株はTW47であった。

3.食中毒起因菌の決定・食中毒発生の要因
本事例において、患者からウェルシュ菌以外の食中毒起因菌が複数分離されたが、症状や潜伏時間、および患者から高率にcpe 遺伝子(+) ウェルシュ菌が分離されたことから、本事例の食中毒はウェルシュ菌によるものと決定された。cpe 遺伝子が検出された食品は、前日に調理され、室温での放冷後に冷蔵で保存されていた。このため、加熱調理によって死滅しなかったウェルシュ菌が室温放置時に増殖したと考えられた。

保健所の調査では、B飲食店の調理施設は、1,000食を超える調理規模には対応しておらず、能力以上の大量調理が行われていた。さらに、食品の不衛生な取り扱いや不十分な調理器具の消毒、施設の衛生管理の不備、および従事者の不十分な健康管理などが指摘され、これらが食中毒を引き起こした要因であったと考えられた。

4.まとめ
本事例は、加熱調理後、室温放置した食品が原因と考えられた事例であり、営業者の食品衛生に関する認識不足、利益追求によるモラルの低下が要因となったものであった。また、今回はHobbs型に該当しないウェルシュ菌による食中毒であったが、近年、当県ではこのような菌による食中毒も多くみられ、疫学解析をする上での困難性を感じた。

謝辞:今回の事例において、TWの血清型別を行っていただいた、東京都健康安全研究センターの方々に深謝いたします。

岐阜県保健環境研究所
古田紀子 山田万希子 白木 豊 野田伸司
岐阜県中濃保健所
中川祥子 清水智恵子 大口典子1) 杉山 治 今尾幸穂 大島咲子
後藤判友2) 出口一樹1)
1)現在、岐阜県西濃保健所所属
2)現在、岐阜県中濃振興局所属

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