福井県の高いMR第2期接種率はどのようにして達成されたか?
(Vol. 29 p. 191-193: 2008年7月号)

1.はじめに
福井県では2003(平成15)年度から予防接種の未接種者を把握するシステムが稼動しており、未接種者に対して、個別に勧奨することが可能となっている。

こうした取り組みの結果、福井県の2006(平成18)年度MR第2期接種率は91.4%で全国1位だった。2007(平成19)年度は94.4%に上昇したものの、全国3位であった。また、福井県ではどの市町においても個別接種を行っており、接種率は92.7%以上となっている。

今回、福井県の高い接種率が維持されている要因について検討した。

2.施策ごとの評価について
(1) 情報提供、広報等
春に個別通知を発送してからの接種者数の推移をに示した(越前市の例)。棒グラフは月ごとの接種者数、折れ線グラフはその累積を示す。初年度は新聞社にも働きかけて特集記事などを掲載してもらったり、市広報で呼びかけ、保育園や幼稚園の年長児にチラシも配ったが、その月に接種者数が増えるという傾向はなかった。

つまり、不特定多数を対象にした広報の効果は限定的であった。

(2) 就学時健診
就学時健診の通知とともに、MR第2期の接種勧奨のチラシを送り、学校医にも指導を依頼したところ、その月の接種者数は増加したが、それでも接種者数の累積は60%にしか達しなかった。

(3) 個別勧奨
そこで、1月からは未接種者への個別勧奨をくり返し、ようやく3月末までに90%を超えることができた。

高い接種率を目指すために最も重要なのは、未接種者をいつでも容易に特定できるシステムが整備されていることである。

さまざまな勧奨チラシ、教育活動、マスコミを使った広報活動などは大切なものであり、一定の効果がある。しかし、このような不特定多数に向けた勧奨の効果には限界があり、さらに高い接種率を目指すには「のんびり」組や「うっかり」組に対する個別勧奨が不可欠であることがわかる。

3.注目すべき福井県の取組み(未接種者把握システムの確立)
福井県では、県小児科医会の企画と県健康増進課の働きかけにより、乳幼児の定期予防接種済み状況が把握できるシステムが平成15年度から稼働しており、現在全市町で整備されている。

Aという子がBCGやDPT、MRなどをいつ受けたかがすぐにわかるシステムで、これを集計すれば年齢別、ワクチン別の接種率が随時正確にわかる。これは逆に、たとえばB市の3歳児でMR第1期をまだ受けていない人は何人いるか、それはどこの誰か、ということが随時わかるということであり、未接種者に対して郵送や電話などで個別勧奨することが可能である。

このようなシステムを県全体で確立しているのは福井県だけのようであるが、このシステムはなにも特別なものではない。定期の予防接種実施要領に明記された予防接種台帳の整備と管理をコンピュータ等で地道に正確にやっているだけである。

福井県も以前は予防接種台帳の管理が不十分であったり、住民基本台帳との連動がうまくいっていなかったため、時には接種率が 100%を超えるという奇妙なデータも存在していたが、県小児科医会は正確な接種率を求める目的で市町と協力して現在の体制を作り上げた。その結果、各種ワクチンの未接種者を随時に特定できることとなり、現在の高い接種率を実現することが可能となったのである。

4.考 察
現在、他県ではさまざまな予防接種率の算定法が試みられている。抽出サンプルに基づいた累積接種率算定(推計)や3歳児健診を利用した算定などがあるが、私ども福井県方式に慣れた者にとっては、なぜ今もこのように不正確な方法に頼り続けているのか理解に苦しむ。接種率算定の目的は接種率向上であるが、90%、95%という高い接種率を目指すには未接種者の特定が不可欠であるから、それにつながらない算定方法は今後は意義が少ないのではないかと考えられる。

大都市では転出入が多いために予防接種台帳の管理が繁雑になるが、住民基本台帳との連動ができていれば技術上の問題にすぎない。実際に姫路市では人口50万という大都市にもかかわらず、小児科医・岡藤輝夫氏の尽力によって見事な管理システムが稼働している。このようなシステムの必要性を最も良く理解しているのは小児科医であるから、小児科医が行政に根気よく働きかければ福井県方式が全国に完備されるのに時間がかからないと思われ、各県も同様の方式をとることが必要であると考える。

5.最後に
福井県がMR第2期接種率で全国1位(平成19年度は3位)になったのは偶然ではない。未接種者(麻疹に限らず)を容易に把握できるシステムを整備したことがその理由である。

福井県小児科医会予防接種委員会委員長 橋本剛太郎
福井県健康福祉部健康増進課課長 一戸和成

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