原発性アメーバ性髄膜脳炎、2007年−米国
(Vol. 29 p. 203-204: 2008年7月号)

原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)はNaegleria fowleri の感染による、まれとはいえ、致死的な疾患である。N. fowleri は温暖な淡水の環境に生息している。感染はN. fowleri を含んだ水が鼻から入り、アメーバが嗅神経を経由して脳に至ることにより成立する。2007年、米国で6例のPAMがCDCに報告され、全例死亡した。

アリゾナ州の症例:2007年9月16日、14歳の少年が髄膜炎疑いで入院した。症状は9月14日にひどい頭痛、頚部硬直、発熱で始まった。N. fowleri が髄液から検出された。9月17日に死亡した。彼は9月8日にアリゾナ北部の湖で泳いでいた。9月8日の水温は30.2℃で、気温は42.2℃であった。

フロリダ州の症例:2007年6月8日、14歳の少年が救急外来を受診した。症状は6月6日に耳の圧迫感で始まり、翌日にはひどい頭痛と嘔吐を呈した。受診時には心肺停止状態で、まもなく死亡した。9月7日、剖検により脳組織でPAMと診断された。彼は発症前2週間の間に、水路やプールで遊んでいたが、感染源は特定できなかった。

2007年8月6日、11歳の少年が細菌性髄膜炎の疑いで入院した。症状は8月2日に頭痛と失神発作で始まった。N. fowleri が8月7日の髄液から検出された。即日アムホテリシンBなどの治療が開始されたが、8月8日に死亡した。感染機会は7月28日の湖での水泳と思われた。その日の気温は32.8℃であった。

2007年9月2日、10歳の少年が頭痛、全身痛、発熱、悪心・嘔吐、失神で救急外来を受診した。症状は8月31日に頭痛と傾眠で始まった。受診後、発熱、意識混濁、腹痛を訴えた。N. fowleri が9月3日と4日の髄液から検出された。即日アムホテリシンBなどによる治療が開始されたが、9月4日に死亡した。彼は8月19日と26日に湖で水泳を行っていた。26日の湖の水温は31.7℃、気温は34.4℃であった。

テキサス州の症例:2007年8月、12歳の少年が6日間続く熱で受診した。彼は発症の1週間前にサマーキャンプに参加し、湖で泳いでいた。後日N. fowleri と同定された運動性のアメーバが髄液から検出された。アムホテリシンBなどによる治療にもかかわらず、受診後5日目に死亡した。8月の湖の平均水温は29.1℃であった。

2007年8月31日、22歳の男性が光過敏、精神の変調、2日前からの頭痛を訴え受診した。前頭部が常に押されているようだと訴えた。CT上異常は見られず、入院時はウイルス性の髄膜炎と診断された。治療の甲斐なく9月4日に死亡した。N. fowleri が脳組織から検出された。彼は受診する7日前の8月24日に湖に落ちていた。

1937〜2007年の症例検討:2007年の6例のPAM症例の報告を受け、CDCと各州の衛生当局はPAM症例数が増加しているかを検証するために、1937〜2007年に米国で報告のあったPAMの症例を検討した。分析は進行中であるが、中間報告では1937〜2007年に121例が発生していた。2007年の6例は過去6番目に多かった。平均年齢は12歳で、男性が78%を占めた。生存例は1例のみであった。曝露はほとんど南部の州(アリゾナ州、アーカンソー州、カリフォルニア州、フロリダ州、ジョージア州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ミズーリ州、ネバダ州、ニューメキシコ州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、サウスカロライナ州、テキサス州、バージニア州)の未処理の温かな淡水の湖や川の水であった。症例の85%が7〜9月に発生していた。

(CDC, MMWR, 57, No.21, 573-577, 2008)

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