航空機による旅行における結核ガイドラインの改訂
(Vol. 29 p. 202-203: 2008年7月号)

航空機内に結核患者がいる場合、特に長時間の航空機搭乗は結核感染のリスクとなる。航空機内での多剤耐性結核(MDR-TB)感染や、易感染者への感染の危険性が問題視され「結核と航空機による旅行(予防と対策のガイドライン)第3版」がWHOから公表された(http://www.who.int/tb/publications/2008/WHO_HTM_TB_2008.399_eng.pdf )。第3版での概要は以下のとおりである。

(1) 症例定義と推奨される対応
感染性結核:喀痰塗抹陽性かつ培養検査ができる場合には培養も陽性の肺または喉頭結核患者→該当国で取られている接触者調査の実施。

感染性のおそれのある結核:喀痰塗抹陰性で培養のみ陽性の肺または喉頭結核患者→情報収集後リスクアセスメントを行い、接触者調査を実施すべきか決定。

非感染性結核:2回連続喀痰塗抹陰性かつ培養検査ができる場合には培養も陰性の結核患者→対応の必要なし。

(2) 勧告
旅行者に対して
非感染性結核以外の結核患者は非感染性結核になるまで搭乗時間にかかわらず航空機による旅行を延期すべきである(である:以下略)。

医療従事者に対して
非感染性結核以外の結核患者は少なくとも適切な2週間治療を完全に受け、かつ少なくとも2回喀痰塗抹陰性となるまで旅行を禁止するよう指導すべき。MDR-TBおよび超多剤耐性結核(XDR-TB)患者は非感染性結核と証明されるまで航空機旅行を禁止するよう指導すべき。非感染性結核以外の結核患者が指導に従わない場合や、どうしても航空機を利用しなければならない状況にあるときは公衆衛生部局に直ちに通報すべき。過去3カ月以内に非感染性結核以外の結核患者が航空機旅行をした場合は公衆衛生当局に連絡すべき。

公衆衛生当局に対して
感染性結核患者が航空機による旅行を計画しているということを察知した場合、航空会社に連絡し搭乗拒否を要請すべき。非感染性結核以外の結核患者がどうしても航空機を利用しなければならない状況にあるときは、航空会社、出発地と到着地と乗り換え地点にある公衆衛生当局の承認をとることが必要。非感染性結核以外の結核患者が3カ月以内に8時間以上の航空機による旅行をしたということが判明したときは初期のリスクアセスメントに必要な情報を得るために航空会社に接触すべき。患者が診断された当該国の公衆衛生当局はその患者についてリスクアセスメントを実行し、患者のすべての旅行先の国に通報すべき。もし接触者調査が2つ以上の国にまたがるときは、当該国は各々の役割と責任を負うべき。航空会社から乗客名簿の情報を得た公衆衛生当局は相手方の公衆衛生当局に接触をとり、情報(初発患者および被曝露者、つまり患者の座席と同列および前後2列の座席にいた者の関連情報)を提供すべき。公衆衛生当局は、接触者調査に関する政策やガイドラインに従い、また国際保健規則(IHR)を考慮して調査を実施すべき。公衆衛生当局は当該国のIHR担当部局と情報のやり取りをすべき。

航空会社に対して
航空会社は公衆衛生当局によって感染性結核患者の情報がもたらされた場合、非感染性結核以外の結核患者に対し搭乗拒否をすべき。離陸まで30分以上時間がかかる場合、機内の換気システムがきちんと作動していることを確認すべき(編集部注:待機中は換気システムをとめていることがあるため)。機内空気を循環させている航空機ではHEPAフィルターないし同程度の高性能粒子濾過システムを確実に作動させるべき。乗務員は感染性疾患の曝露の危険性やそのための救急措置について適切なトレーニングを受けるべき。すべての航空機に救急医療器具(手袋、外科用マスク、バイオハザード廃棄物バッグ、消毒剤などを含む)を常備させるべき。旅行者の接触者調査に必要なすべての利用できる情報をできる限りすばやく公衆衛生当局に提供すべき。

(WHO, WER, 83, No. 23, 209-213, 2008)

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