修学旅行先において腸管出血性大腸菌 O26に感染したと思われる事例−佐賀県
(Vol. 29 p. 162-163: 2008年6月号)

佐賀市内の高校において、修学旅行先のオーストラリアにて腸管出血性大腸菌(EHEC)O26に感染したと思われる事件が発生したので概要を報告する。

探知:2008年3月7日、佐賀市内の医療機関より、17歳女性からEHEC O26[VT1産生、以下EHEC O26(VT1)と略]が検出されたとの3類感染症の発生届けがあった。患者は2月27日に腹痛の症状があり、29日より腹痛に加え下痢を発症し、3月3日に医療機関を受診した。

上記の報告を受け、患者の喫食状況等を調査したところ、患者が通う高校の修学旅行(2月21日〜25日至オーストラリア)に参加していたことが判明した。直ちに学校の協力のもと調査を開始し、修学旅行に参加した生徒225名、引率教師9名全員の検便を実施するとともに、発症状況および喫食状況等の聞き取りを行った。

修学旅行の概要:旅行期間は 2月21日〜25日であり、21日に成田空港を出発し、22日午前シドニーに到着した。到着後、シドニー市内(ボンダイビーチ、ミセスマッコリーズチェア、オペラハウス、ロックス)観光し、生徒は各自ホームステイ宅に24日朝まで滞在(引率教師はホテル泊)した。ホームステイ終了後、再び全員集合してシドニー郊外の動物園(フェザーデールワイルドライフパーク)を観光し、翌25日帰国した。

症状等:有症者は、高校生87名と教師1名で、2月21日〜3月13日と長期にわたって発症しており、クラスに偏りはなく、顕著なピークも認められない(図1)。主な症状は腹痛で、下痢、嘔吐、発熱を伴うものもおり、重症に至ったものはいなかった。

原因の探求:参加者234名を対象に検便を行った結果、有症者87名のうち36名から、無症状者147名のうち36名からEHEC O26:H11(VT1)が検出された。また、感染者の家族205名を検便した結果、4名(無症状)からEHEC O26:H11(VT1)が検出された。検出されたEHEC O26株について制限酵素Xba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った結果、30株中28株が同一の遺伝子パターンであった。

感染原因を喫食状況からみると、旅行中の食事については、表1に示すとおりである。EHEC感染症の感染原因として日本では、肉類、サラダ、野菜、井戸水などが、外国ではハンバーガーなどのひき肉を用いた食品、生野菜、果物、アップルジュースなどが原因食品となった事例が報告されているが、本事例では原因と推定される共通食品は見出せなかった。機内食については往復路ともに苦情の届出はなかった。また、EHEC感染症は動物と接触することにより感染した事例も報告されていることから、24日の動物園での動物との接触状況を調査した。その結果、全生徒225名中151名がコアラ、カンガルー等なんらかの動物と接触しており、動物との接触者ではEHEC O26に感染した者が30%を占めていたが、その種類により感染率に差はみられなかった。

これらの調査中に同時期にホームステイを除き同様な日程でシドニーを訪れた横浜市の専門学校の研修旅行に参加した1名からEHEC O26(VT1)が検出されたとの情報が入り、菌株を得て制限酵素Xba IによるPFGEにより本県事例の菌株と比較した。その結果、両者は同じ泳動パターンを示した(図2)。

結論:佐賀県感染者由来株と横浜市の患者由来株が同一のPFGEパターンを示したことから、滞在先での感染が強く疑われた。しかし、初発の患者の届出が帰国後10日と日数が経過していたことや、推定される感染地域がオーストラリアであるため、食材等の検査を行えなかったことから、現時点では原因食品または感染経路まで特定することはできなかった。

今回の事例は長期間にわたって感染者が出現し、帰国後における生徒間の二次感染も疑われたことから、今後、修学旅行の学校現場等での健康観察対応については、帰国後少なくとも1週間程度は観察を行い、有症状者が複数名確認された時点で迅速な保健所等への情報提供が必要だと思われた。また感染者家族への二次感染もみられたことから、二次感染対策の重要性が痛感された。感染者は1名を除きすべて陰性化している。

なお本事例では、旅行初日から数名がなんらかの症状を訴えており、国内で感染し、旅行中の感染拡大の可能性も否定できない。

しかし、今年に入ってから佐賀県ではEHEC O26の届出が他になかった。また修学旅行前の第8週(2月18日〜24日)において佐賀県では感染性胃腸炎とインフルエンザの流行期(定点当たり患者発生数はそれぞれ9.48、24.26)であった。以上のことから国内感染とするには疑問が残るところである。

佐賀県衛生薬業センター 西 桂子 諸石早苗 坂本晃子 舩津丸貞幸
佐賀県佐賀中部保健福祉事務所 廣重有美 藤森勇男
佐賀県立病院好生館 眞子純孝

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る