AIDS発症によりHIV感染が診断された者の指標疾患の動向−感染症発生動向調査による集計
(Vol. 29 p. 151-153: 2008年6月号)

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づくAIDSの届出は、23の指標疾患のうち1つ以上が明らかに認められる場合にされる(届出基準:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。

感染症発生動向調査では原則として初回診断時の届出が診断した医師に義務付けられており、AIDS発症前にHIV感染者として届け出られ、その後AIDSを発症した場合には、感染症発生動向調査とは別に、「病変報告」が任意の報告として提出される。また、感染症発生動向調査では、氏名・住所などの個人を特定できる情報は届出されないので、同一患者の二重の届出が除外しきれない。当然ではあるが、日本で診断された外国籍者も届出対象であり、国外で診断された日本国籍者は対象にならない。このような制限はあるが、AIDS発症によりHIV感染が診断された者の指標疾患について、感染症発生動向調査による集計を行った(以下では、一部の指標疾患の名称を略して表示する)。

1.年別指標疾患
年別・男女別の指標疾患の発症数を表1に示した。同時に複数の指標疾患を発症しているものを含んでいるが、それぞれの出現時期に関する情報はない。

AIDS診断時における各指標疾患の発症率(当該指標疾患発症数/AIDS患者届出数×100)でみると、1999〜2007年において上位5疾患は同様であり、2002年以降はその順位も同様で、ニューモシスティス肺炎(9年間の平均発症率49%)、カンジダ症(同30%)、サイトメガロウイルス感染症(同13%)、HIV消耗性症候群(同11%)、活動性結核(同8.8%)の順であった。

2.国籍別指標疾患
2005〜2007年の3年間の報告について、国籍別の指標疾患の発症率を図1に示した。この3年間の国籍別のAIDS患者数は、日本国籍1,017例[男性965例・女性52例、年齢中央値42歳(10〜77歳)]、外国籍140例[男性90例・女性50例、年齢中央値38歳(19〜68歳)]、国籍不明23例であった。

発症率が5%を超えた指標疾患は、日本国籍の1,017例では、ニューモシスティス肺炎542例(53%)、カンジダ症316例(31%)、サイトメガロウイルス感染症176例(17%)、HIV消耗性症候群91例(11%)、活動性結核およびカポジ肉腫各56例(8.8%)の順であり、外国籍の140例では、ニューモシスティス肺炎43例(31%)、カンジダ症34例(24%)、活動性結核30例(21%)、トキソプラズマ脳症15例(11%)、HIV消耗性症候群14例(10%)、クリプトコッカス症8例(5.7%)の順であった。各疾患の発症率を両者の間で比較すると、ニューモシスティス肺炎、サイトメガロウイルス感染症が日本国籍で多く、活動性結核、トキソプラズマ脳症、クリプトコッカス症が外国籍で多かった。

3.日本国籍AIDS患者の指標疾患
1)性差
2005〜2007年の3年間の報告について、日本国籍AIDS患者の男女別指標疾患発症率を図2に示した。

発症率が5%を超えた指標疾患は、男性(965例)では、ニューモシスティス肺炎517例(54%)、カンジダ症297例(31%)、サイトメガロウイルス感染症167例(17%)、HIV消耗性症候群82例(8.5%)、カポジ肉腫56例(5.8%)、活動性結核52例(5.4%)の順であり、女性(52例)では、ニューモシスティス肺炎25例(48%)、カンジダ症19例(37%)、サイトメガロウイルス感染症およびHIV消耗性症候群各9例(17%)、活動性結核4例(7.7%)、HIV脳症3例(5.8%)の順であった。HIV消耗性症候群が男性に比して女性での発症率が高く、男性で5%以上に認められたカポジ肉腫は女性では診断されていなかったこと以外は、性別による指標疾患の発症率に明らかな差は認められなかった。

2)年齢分布
2005〜2007年の3年間の報告について、日本国籍AIDS患者の年齢群別の指標疾患発症数を男女別に表2に示した。

男性では、ニューモシスティス肺炎の報告数は30代が特に多く、次いで50代、40代であるが、発症率では20代(当該年齢群別発症数/年齢群別患者数×100=63%)が最も高かった。カンジダ症は、報告数は30代をピークに30〜50代に多く、発症率では50代(37%)をピークに20〜70代までほぼ同様の30%前後であった。サイトメガロウイルス感染症は、報告数は30代をピークに30〜50代に多かったが、発症率では50代(23%)、60代(19%)、20代(18%)、30代(16%)の順であった。HIV消耗性症候群は、報告数は30、40、50、60、70代の順であったが、発症率は70代(40%)が特に高かった。カポジ肉腫の報告数は30、40、50、60、70代の順であったが、発症率は30代(7.9%)で最も高かった。活動性結核の報告数は40代をピークに30〜50代に多く、発症率では40代(7.5%)、60代(7.4%)、70代(6.7%)が高かった。

女性では、ニューモシスティス肺炎は、報告数は40代、30代に多く、発症率は40代(77%)が特に高かった。カンジダ症は、報告数は30代に最も多く、発症率は60代(60%)が最も高かった。サイトメガロウイルス感染症は、報告数は30代で最も多く、発症率も30代(25%)が最も高かった。HIV消耗性症候群は30代と60代がともに3例であったが、発症率では60代(60%)のほうが高かった。

以上、感染症発生動向調査をもとに、AIDS発症によりHIV感染が診断された者の指標疾患の動向をみた。AIDS指標疾患とされている疾患を診断した際にHIV感染(AIDS発症)を見逃さないためにも、参考にしていただければ幸いである。

国立感染症研究所感染症情報センター

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