保育園で発生した腸管出血性大腸菌O111とノロウイルスの同時流行による集団発生事例−宮崎県
(Vol. 29 p. 126-128: 2008年5月号)

2007年10〜11月、宮崎県において、腸管出血性大腸菌(EHEC)O111:H- (VT1産生)とノロウイルス(NV)の同時流行と思われる集団感染事例が発生したので、その概要を報告する(表1)。

11月2日、宮崎県都城市内の病院より、発熱、嘔吐、水様性下痢を呈した入院患者2名から血清型不明、VT1陽性のEHECが検出されたという届出があった。この2名は同じ保育園に通う1歳男児であったため、保健所は、患者と家族の健康調査および保育園の聞き取り調査を行った。

2名の届出患者については、入院前の旅行、会食、焼肉等の感染源に関わる特記すべき事項はなかったが、通っている保育園に同様の症状を呈する園児がいたことから、有症園児6名、以前に症状のあった職員1名、および患者家族7名の計14名の検便を実施した。その結果、新たに有症園児3名からVT1(PCR法)が検出されたが、これらの3名はいずれも先に届出のあった2名と同じ1歳児クラスの園児であった。園では給食により全クラスが同じ食事をとっていたにもかかわらず、VT1陽性者が1歳児クラスに多かったことから、食中毒の可能性は低いと判断し、感染症法に基づき、すべての園児、職員、陽性者家族について疫学調査および検便を実施した。

保育園での疫学調査の結果、患者は、10月中旬〜11月初めにかけて嘔吐、下痢を主訴として発症し、家族にも発熱、嘔吐、水様性下痢を示す患者が発生した。また、これらの症状は、同時期に、県内で頻発していたNVによる嘔吐下痢症にも類似していたことから、EHECのほかに、NVの検査も実施することとした。

EHECの検査は、VT遺伝子検出(PCR法)と菌分離を並行して実施した。園児82名、職員19名、陽性者家族64名の計165名の便を検査し、園児20名、職員1名、家族4名の計25名からEHEC O111:H- (VT1産生)を検出した(表2)。これらの25名から分離された25株のパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE、制限酵素Xba I使用)による遺伝子解析の結果から、本集団発生は同一感染源によって起こったものと推定された(図1)。

保育園において、最も高率にO111が検出されたのは1歳児クラスで、16名中12名(75%)から検出された。このクラスで感染が拡大した要因としては、1歳児クラスがトイレに隣接した部屋であること、トイレに備えられたタオルが共用であったこと、トイレと同じ区画内に汚物入れ、洗濯機が設置されていたこと等が推測された。

さらに、最初の届出患者2名を除くO111陽性者23名、陰性者8名の計31名の便について、リアルタイムPCR法によりNVの検査を行ったところ、表3に示すように、O111陽性者9名、陰性者6名の計15名が陽性であった。検出したNV中、遺伝子型を決定した4例(表3のNo.3:10/20発症、No.2:11/1発症、No.4:11/1発症、No.29:発症なし)は、いずれも GII/4類似型で、カプシド領域の270bpが100%一致していた。このことから、本保育園では、O111と同時にNVによる感染も発生していたことが判明した。

症状については、表3に示すように、EHEC O111とNVが同時に検出された9名では、7名(78%)に下痢等が見られ、2名(22%)が無症状であった。また、NVのみ陽性であった6名では、5名(83%)に下痢が見られたのに対し、EHEC O111のみ陽性であった14名では、6名(43%)に下痢等の症状が見られたにすぎず、NV感染者で症状の発現頻度が高かった。一般に、EHEC感染症の主な症状は下痢、腹痛、血便とされており、下痢、嘔吐、発熱を主症状とするNVとは少し異なる。今回の事例では、O111のみに感染した人は症状も軽く無症状者も多かったが、O111とNVが混合感染した人は、下痢、吐き気・嘔吐、発熱を呈する人が多かったと考えられた。

患者発生期間中、管轄保健所は、保育園関係者および園児保護者に対し、感染の予防法、陽性者の就業制限、ならびに発生の経過等の説明を適宜実施した。また、保育所でのEHEC O111の感染拡大を防止するため、1週間休園し、園内消毒等の指導を行い、11月16日に最終患者の病原体消失が確認されたため本事例への対応を終了した。

今回、我々は、O111とNVの同時流行と思われる集団発生事例を経験したが、症状からはNVを疑わせる患者が多く、最初の入院患者について病院がVTを検査しなければ、O111を見逃した可能性が高い。また、O111感染者が最も多かった1歳児クラスがトイレに隣接した部屋であり、トイレに備えられたタオルが共用であったこと、トイレと同じ区画内に汚物入れ、洗濯機が設置されていたこと等、感染拡大の要因が示唆される状況に加え、NV感染による下痢便の飛散も、O111の感染拡大の要因として考えられた。

宮崎県都城保健所
吉野修司 小寺美津夫 井上隆正 荒木加納子 徳山和秀 佐藤優子 進藤義博
壹岐美恵子 向原洋子 日高信輔 日高香織 樋口芳孝 藤本茂紘
宮崎県衛生環境研究所
河野喜美子 岩切 章 三浦美穂 塩山陽子 山本正悟 川畑紀彦

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