複数の保育施設における腸管出血性大腸菌O157集団発生事例−大阪市
(Vol. 29 p. 123-124: 2008年5月号)

1.事例の概要
2007年8月1日、大阪市内医療機関より腸管出血性大腸菌感染症(EHEC O157:H7, VT2)を発症した3歳女児が、溶血性尿毒症症候群(HUS)を呈し入院中であると届出があった。患児は認可外保育施設(A園)に通園していた。調査の結果、下痢で受診していた他の園児からもEHEC(O157:H7, VT2)が分離されたことが判明し、全園児の検便を実施した。EHECが検出された園児の家族も健康調査および検便の対象とした。3歳女児は8月6日にHUSで死亡した。A園の5歳男児の弟妹(下痢症状あり)が通園する保育施設(B園、B乳児センター)および、A園で一時保育を受けた5歳女児(EHEC O157:H7, VT2)が7月に通園していた保育施設(C園)にも調査を広げたところ、C園の園児複数よりEHEC(O157:H7, VT2)が分離された。B園およびB乳児センターには陽性者がいなかった。検査結果を表1に示す。陽性者は園児10名、家族8名であった。A園で調理された給食の保存食からEHECは検出されなかった。

2.パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)型別
分離されたEHEC(O157:H7, VT2)18株について、PFGE法で解析した。A園関連9株(図1:レーン1〜8、11)は同一のパターンを示した。しかし、当初A園からの感染拡大と考えられていたC園関連株(図1:レーン9〜10、図2:レーン1〜7)は、A園関連株とはPFGE型が異なっていた。

C園関連9株のうち7株のPFGEパターンは一致した。C園関連の2株(図2:レーン6〜7)は、それぞれ他のいずれの株とも異なったパターンを示した。

3.考察
当初A園からの感染拡大が疑われたC園のEHEC(O157:H7, VT2)集団感染は、PFGE解析の結果より、それぞれ別の感染源による独立した事例であることがわかった。C園関連株のうち2株はA園・C園、いずれの集団発生関連株とも異なったパターンを示した。この2株は無症状感染の姉弟より分離された。

聞き取り調査の結果を考慮すると、今回の事例はPFGE型別の結果より、少なくとも3つの感染源の異なる事例が同時に検出されたものと考えられた。今回のように、2カ所の保育施設で連続してEHEC感染症が発生した場合に、同一の感染源によるものかどうかを疫学的な関連のみで判断するのは難しい。集団発生時の感染経路等の検証にはPFGE法による型別が不可欠であることを示す事例であった。

4.結論
A園関連9株はPFGE型がすべて一致した。当初A園からの感染拡大と考えられていたC園関連9株は、A園関連株とはPFGE型が異なり、二つの保育施設での集団発生は別の感染源によるものであった。

大阪市立環境科学研究所
小笠原 準 北瀬照代 中村寛海 和田崇之 梅田 薫 後藤 薫 長谷 篤 石井營次
大阪市保健所
川人礼子 稲葉宏美 来馬展子 井上浩司 森 登志子 松井廣一 吉田英樹

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