2007年に広域において見出された同一PFGEタイプを示す腸管出血性大腸菌O157について
(Vol. 29 p. 119-120: 2008年5月号)

国立感染症研究所細菌第一部に送付され、解析を行った2007年分離のヒト由来EHECは2,781株あり、そのうちO157は2,150株、O26は306株であった(2008年1月現在)。

2007年にはXba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンがO157で870種類(Type No.c1〜c790およびその他)見られ、少なくとも三つ以上の異なる都道府県から分離された同一PFGEパターンが37種類あった。このうち、五つ以上の都道府県から分離されたO157には12種類の泳動パターンがあり、特に多くの都道府県(6〜22カ所)から分離されたパターンとして、Type No.(TN) a829、a259、b142、b293、b705、c47の6種類があった(図1)。

TN c47を除いた5種類のパターンを示す株はそれぞれ2006年に引き続いて分離されていたが、Bln IによるPFGEパターンを比較すると、それぞれのパターンに数種類程度の変異型が含まれていた。TN a829の株では、半数以上が変異型と考えられるBln Iパターンを示した。TN a259、b142、b293、b705では、Bln Iのパターンでもそれぞれ70%以上の株は同一パターンを示していた。

2007年に広域から分離されたこれらの株は6カ月以上の長期にわたって各地から分離されており、異なる環境での増殖が繰り返されたことがBln Iパターンの変異型の発生に寄与しているものと考えられた。

さらに、Bln Iパターンが一致している株をMultiple-locus variable-number tandem repeat analysis (MLVA)法により9種類の遺伝子座について調べると、複数の遺伝子座でリピート数が異なる株があったことから、その遺伝学的な多様性が示唆された。

一方、22都府県から119株が分離されているTN c47では、Bln Iパターンにおいてもすべてが同一パターンを示し、83株はMLVAでもすべての遺伝子座で繰返し数が一致した(表1、A型)。また、集団発生由来株で報告されているわずかなリピート数の変異、すなわち、1遺伝子座について繰返し数が一つ(SLV1)および二つ(SLV2)異なる変異株が31株あった(表1、B〜J型)ことから、TN c47 119株中114株については遺伝子構成が極めて類似し、関連性が高いことが示唆された。なお、TN c47を示す株が分離された事例として、首都圏の大学での集団発生事例(本号4ページ参照)があり、調理施設内でEHEC O157に継続的に二次汚染された生野菜が原因食として疑われている。TN c47株を原因とするその他の散発事例では、焼肉、生レバー等の食肉が原因食品として疑われた事例が複数確認されていた。

PFGEおよびMLVAにおいて遺伝子型が一致する株においては互いの遺伝学的関連性が極めて高く、分離地が異なっていても発生時期が近い場合、共通の感染源の存在が疑われる。このような広域に及ぶ事例を早期に探知してその拡大を防ぐとともに、原因究明に向けた対策が重要である。

国立感染症研究所細菌第一部
寺嶋 淳 泉谷秀昌 伊豫田 淳 三戸部治郎 石原朋子 渡辺治雄

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