麻疹ウイルスの局地的流行と拡大防止に向けた取り組み−秋田県
(Vol. 29 p. 102-103: 2008年4月号)

昨(2007)年来、麻疹は関東から全国に流行が拡大し、学校閉鎖が相次いだことで注目された。秋田県では2007年第22週(5/28〜6/3)〜2008年第11週(3/10〜3/16)にかけて麻疹の届出が182件あったが、そのうち132件(73%)までが県北部の1地域であった。当該地域の届出数の推移は図1に示したとおりである。2007年第25週(6/18〜6/24)に最初の患者が届け出られてからしばらくは単発の発生に留まっていたが、2007年第51週(12/17〜12/23)から流行が急拡大し、地元自治体は非常事態宣言を出すに至った。地元自治体と県教育委員会の判断により、2008年1月23日(第4週)からワクチン未接種者の全小中学校(当該市内)と全高校(秋田県北部)への出席停止措置を導入したところ、流行は急速に収まり3月17日(第12週)に麻疹終息宣言を出すことができ、隣接地域への波及も最小限に食い止められた。

麻疹の流行期間中に当該地域の病原体定点より回収した咽頭ぬぐい液42検体について、RT-PCRを行ったところ、図1に示すとおり29検体から麻疹ウイルスを検出した。検出したウイルスのNP遺伝子3´末端側の385bp(型別領域)を含むようにデザインしたプライマー(MVSS-F: 5´AATGCATACTACTGAGGACA3´、およびMVSS-R: 5´CACCTAGTCTAGAAGATCAC3´)を用いて増幅したDNA断片の一本鎖高次構造多型(SSCP)解析を行ったところ、パターンは図2に示すとおりすべて一致し、同一の塩基配列であるものと考えられた。次にその中から代表株を1つ抜き出して当該領域の塩基配列を決定し系統解析をしたところ、MVs/Gunma.JPN/19.07/M01[D5](2007年5月7日検体採取)と100%の相同性が確認され、D5型と判定された(Accession No.: AB426545)。他の株もSSCPパターンが同一であることから、一連の流行はD5型によるものと考えられた。なお、当該地域以外から検出された3株の麻疹ウイルスについても同様の解析を行ったが、上記のものと同一の塩基配列をもったD5型であった。

現在のところ、麻疹ウイルスの型別には塩基配列を決定した上での系統解析しか方法がないが、本事例のように多検体を処理する場合は、SSCP解析を併用することでその作業を大幅に省力化することができると考えられた。

これまで麻疹の流行への対策として学校閉鎖がもっぱら行われてきたが、地域社会へ及ぼす負担が大きいことは否めない。今回の事例ではワクチン未接種者だけを出席停止とすることで流行を終息へ導くことができたため、今後の対策のための1つのモデルとなることが期待できる。

秋田県健康環境センター
斎藤博之 佐藤寛子 柴田ちひろ 山脇徳美 佐藤智子 高階光榮
大館市立総合病院・小児科 高橋義博

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