2008年2〜3月仙台市におけるC型インフルエンザウイルスの相次ぐ分離
(Vol. 29 p. 103-104: 2008年4月号)

2007/08インフルエンザシーズンの仙台市周辺におけるインフルエンザウイルスの分離は、AH1亜型のインフルエンザウイルスがほとんどで、分離数もいつものシーズンとくらべてかなり少なく推移し、2月、3月には一段と減少傾向にあった。一方、2月に入ってからC型インフルエンザウイルスの分離が見られるようになり、3月にかけても分離が続いている1)ので報告する。

ウイルス分離:分離材料は、仙台市内医療機関受診の呼吸器系感染症症状を示した同市在住の患者から採取した咽頭ぬぐい液あるいは鼻腔ぬぐい液。ウイルス分離は仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンターまたは東北大学にてMDCK細胞を用いて実施された。CPEが確認された検体の培養上清を材料に、モルモット血球ならびにニワトリ血球を用いて凝集活性を調べ、前者のみに凝集性を確認したものを暫定AあるいはB型、後者のみに凝集性を示したものを暫定C型インフルエンザ分離株とし、その後AおよびB型の同定については国立感染症研究所より分与された2007/08シーズン検査キットの複数のフェレット抗血清、またC型については山形大学細菌学教室の作製した抗C型インフルエンザウイルス-ウサギ血清を用いた赤血球凝集抑制試験により行った。

ウイルス分離成績:上記2つの検査機関での成績をまとめて報告する(表1)。仙台市の主に小児科医療機関を受診したインフルエンザ患者からのA型インフルエンザウイルス分離は、ほとんどがH1亜型であったが、第7週で激減した。H1亜型以外の分離成績は、第6週〜第10週の約1カ月間で見ると、H3亜型も散発的に分離されているものの、インフルエンザ分離に占める割合は6%程度であった、一方、第6週あたりからC型ウイルスの分離が目立ち始め、総分離数23件で、全インフルエンザウイルス分離の11%、この期間に分離を試みた検体のうちの約4%を占めた。

これは、表には示さないが、他のウイルス分離1)(B型インフルエンザウイルス3件、RSウイルス14件、アデノウイルス3件)を大きく上回っている。

C型インフルエンザが分離された患者について:ウイルスが分離された23人のうち、17人は、発熱等のインフルエンザ様症状で外来での診療にとどまっているが、残りの6例のうち5例は、種々の重症感のある症状から当院小児科で入院治療を受けていた患者からの分離であり、1例(2歳男子)はインフルエンザ様疾患に伴う意識障害、頭部CT像上の脳浮腫所見から脳症の診断を受け、仙台市立病院集中治療室で人工呼吸管理を受けていた患者の急性期検体からの分離であった(なお、この患者検体からは、通常のわれわれの分離システムで分離可能なA型およびB型インフルエンザ、RSウイルス、パラインフルエンザ1、2、3、4型、アデノ、エンテロ、ヘルペス、ヒト・メタニューモおよびサイトメガロウイルスは分離されなかった)。

考察:C型インフルエンザの流行は、理由は不明だが波があり、昨年は仙台市ではまったく分離できなかった。流行する年には、日本各地で分離されたこともあり2)、その意味で各地の衛生研究所でも注視すべきと思われる。

C型インフルエンザウイルスに対しては、MDCK細胞、HMV-II細胞、CaCo-2細胞等が感受性を持っており、これらの細胞のいずれかで分離可能である。CPEが観察されたときに血球凝集反応を行い、モルモット赤血球は凝集せず七面鳥赤血球あるいはニワトリ赤血球を凝集するのを確認できれば、容易に判定できる(ただし、ニワトリ赤血球でも初日雛の血球は凝集しないので注意が必要である)。最終的には免疫学的方法あるいは遺伝子解析で同定するが、必要であれば当研究所の協力は可能である。

これまで一般には、稀に分離される成人例の報告によってC型インフルエンザの症状は鼻かぜ程度であるという認識がなされてきたが、われわれはこれまで、C型も統計的にはややA型にくらべて症状は軽いものの、臨床の現場ではA型と区別がほとんどつかないインフルエンザの症状をもたらし、ときに入院にいたる経過をとる例も珍しくないことを明らかにしてきた3)。今回、入院患者からの分離が5週間に6件もあったことは、まさにそれを表していると思われる。とくに、脳症と診断された児の咽頭からC型インフルエンザウイルスのみが分離されたのは初めてのことである。今後は、様々な証拠を集め、同ウイルス感染が本脳症症例の原因であることを解析する予定である。

 参考文献
1)ウイルスセンター週報 http://www.snh.go.jp/Subject/26/virus/weekly.html
2)Matsuzaki et al ., JCM 45: 783-788, 2007
3)Matsuzaki et al ., JID 193: 1229-1235, 2006

独立行政法人国立病院機構仙台医療センター
 小児科 貴田岡節子
 臨床研究部ウイルスセンター 岡本道子 近江 彰 西村秀一
永井小児科医院 永井幸夫
庄司内科小児科医院 庄司 眞
仙台市立病院小児科 渡邊浩司
東北大学大学院医学系研究科微生物学分野
 鈴木 陽 清水みどり 齋藤麻理子 押谷 仁
仙台外来小児科懇話会15小児科医院 代表 川村和久
山形大学医学部看護学科 松嵜葉子

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