咽頭結膜熱の大規模流行を引き起こしたアデノウイルス3型の分子疫学−兵庫県
(Vol. 29 p. 100-100: 2008年4月号)

ヒトアデノウイルス3型(以下Ad3)は、咽頭結膜熱(PCF)の主要な病原体であり、毎年分離される。しかし、2003年から、兵庫県においてPCF等のアデノウイルス感染症が多発し、その主要な病原体はAd3であった。Ad3の流行の要因に対するウイルス学的な説明はなされていない。そこで、その要因を解析する目的で、近年のAd3について分子疫学的に解析した。

1994〜2006年に採取された、感染症発生動向調査におけるウイルス分離でAd3陽性であった126件(36%)を対象とした。

ヘキソン領域遺伝子のうち、抗原性に関与することで知られる超可変領域(HVR)を含む領域を増幅した。PCR産物の塩基配列をダイレクトシークエンシングで決定した。

その結果、ヘキソン領域の塩基配列は3種類に分類された。これらをAd3x、Ad3yおよびAd3zとした。比較した1,419塩基対のうち、5カ所(表1)でヌクレオチドの置換が見られた。すべての変異はアミノ酸変異を伴っていた。

126株のAd3は、Ad3x(n=44、35%)、Ad3y(n=46、37%)およびAd3z(n=36、29%)に分類された。

Ad3xは兵庫県において2001年に初めて検出された。韓国で1998年に初めて出現して1999年までAd3の大規模流行を引き起こした株(AY854178)1)と100%(1419/1419bp)塩基配列が一致した。Ad3yは兵庫県において1999年までドミナントで、ジーンバンクに登録されていなかった。Ad3yはAd3zとアミノ酸変異を伴う1塩基の変異が見られた。

1994〜2006年の13年間の調査でAd3がヘキソンのHVRを含む塩基配列によって、3種類に分類された。Ad3xが2001年に初めて検出され、2003〜2005年のAd3大規模流行時に主要な遺伝子タイプであった。またこのAd3xが1998年に韓国で初めて報告されAd3の大規模流行を引き起こした株と同じ塩基配列をもっていた。Adの抗原性を決定すると考えられているHVRに変異があり、その変異が国内での2003〜2006年のAd3大規模流行に深くかかわっていたことが示唆された2)。

なお、現在全国レベルの調査をアデノウイルスレファレンス事業の一つとして実施中であり、2000年に新潟県および広島県にAd3xが侵入していたことが明らかになっている(未報告データ)。

 文 献
1) Choi EH, et al ., J Med Virol 78: 379-383, 2006
2) Fujimoto T, et al ., Jpn J Infect Dis 61: 143-145, 2008

国立感染症研究所感染症情報センター
藤本嗣人 浜本いつき 谷口清州 岡部信彦
兵庫県立健康環境科学研究センター 近平雅嗣

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