感染性胃腸炎および流行性角結膜炎患者からのアデノウイルス検出状況−愛知県
(Vol. 29 p. 96-98: 2008年4月号)

愛知県では感染症発生動向調査事業において、県内(名古屋市をのぞく)31医療機関の協力を得て患者検体からウイルス検出を行っている。アデノウイルス(Ad)の検出は、培養細胞への接種に加えて、2003年からは感染性胃腸炎患者の便および結膜炎患者の結膜ぬぐい液検体についてはPCR法によるAd遺伝子検出を実施している。そこで、培養細胞とPCR法を併用した最近5年間について、両疾患をはじめとするAd検出成績を報告する。

2003〜2007年の5年間に、胃腸炎患者1,605名の糞便と流行性角結膜炎(EKC)患者289名の結膜ぬぐい液が集められた。これら検体に対し(1)Vero、HeLa、RD-18S細胞を用いたウイルス分離および(2)Shimadaら(J Clin Microbiol 42: 1577-84, 2004)によるAd遺伝子の検出を行った。培養細胞にCPEを生じたウイルス株の同定型別は血清中和法により行い、PCR法のみ陽性を示した場合はPCR産物の塩基配列を決定して型別した。

感染性胃腸炎患者1,605名中145名(9.0%)からAdが検出され、うちPCR法のみ陽性であった患者は70名(48%)であった。145件中54件(37%)を41型が占め、以下2型31件(21%)、3型23件(16%)、1型15件(10%)、5型10件(6.9%)であった(表1)。40型とともに胃腸炎原性とされる41型は5年間連続して検出され、全胃腸炎患者からの検出率が3.4%(54/1,605)に達していた。一方、40型は5年間に2名から検出されたのみであった。Adの他にはノロウイルス272件(17%)、ロタウイルス174件(11%)、ワクチン由来ポリオウイルスを除くエンテロウイルス42件(2.6%)、パレコウイルス19件(1.2%)が検出されている。Ad41の検出率は、ノロウイルスとロタウイルスに次ぎ、エンテロウイルスやパレコウイルスより高値であった。

5年間の検出状況を月別に集計すると、9月発症の胃腸炎患者検体中Ad41陽性の占める割合は18%(9/49)、同6月7.5%( 8/106)、同8月7.0%(5/71)と夏に高く、ノロウイルスやロタウイルスの検出率を上回っており(表2)、Ad41はノロウイルスやロタウイルスの流行の合間においては胃腸炎原因ウイルスとして主要な位置を占めていた。

EKC患者289名中108名(37%)からAdが検出され、うちPCR法のみ陽性であった患者は53名(49%)であった。血清型別では3型が53名(49%)を占め、次いで37型27名(25%)、8型24名(22%)、4型4名(3.7%)であった。37型は毎年検出され、2003年にはウイルス陽性者23名中13名(57%)を37型が占めた。一方、8型は2004年と2005年に検出され、2004年はウイルス陽性者21名中12名(57%)、2005年は同22名中12名(55%)を8型が占めた。3型は咽頭結膜熱(PCF)の主な原因ウイルスとされるが、2006年にはウイルス陽性結膜炎患者41名中33名(80%)より検出された(表3)。過去5年間に結膜炎の診断で搬入された検体からは、Ad以外のウイルスは検出されなかった。EKC をおこす血清型には、37型および8型以外に19型、11型が知られている。愛知県内で病原体検索に参加している眼科定点は1カ所であるが、2001〜2002年にかけて19型が分離されており、これらの血清型が数年おきに交互に流行の主役となっているものと思われた。

Adは上記2疾患以外にも、PCFや上気道炎などの診断名で搬入された検体から5年間に 342件検出されており、表4にその血清型の内訳を示した。6型、31型、40型、41型は主に胃腸炎患者から、8型のすべて、および37型のほとんどがEKC患者から検出されている。( )内にPCR法のみ陽性の検体数を示したが、6型、8型、41型は同法導入により検出可能になったと考えられる。

対照的に31型は6件中5件(うち4件は胃腸炎患者糞便由来)が細胞分離で陽性であった。A種に属する31型は主な胃腸炎原因ウイルスとはされていないが、F種(40型、41型)以外ではC種(1型、2型、5型、6型)とともに胃腸炎との関連が指摘されている。31型5件中4件が胃腸炎患者から分離されたことは、胃腸炎原性を支持するものと考える。

愛知県衛生研究所微生物部
山下照夫 伊藤 雅 川口まり子 田中正大 秦 真美 小林愼一 榮 賢司 皆川洋子

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