アデノウイルス感染対策
(Vol. 29 p. 95-95: 2008年4月号)

感染経路
ヒトアデノウイルス(Ad)は、呼吸器からの飛沫感染や接触による感染など様々な経路で感染する。

呼吸器による感染は、BおよびE種で多い。C種は小児の糞便中に長期間排泄され、糞口感染する。F種は糞口感染でのみ流行すると考えられている。また、眼にもAdは感染し、D種では汚染されたタオル、手指あるいは水などにより感染すると考えられている。D種のAd19および37は性行為によって性器にも感染することが知られている。Adの潜伏期は、呼吸器系で2〜14日、腸管系で3〜10日、眼感染症で7〜14日である。

Adのうち、流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)患者は成人に多く、院内感染しやすい。汚染された手指等の眼への接触に注意するべきである。

アデノウイルスの消毒・滅菌法
Adはエンベロープを持たないDNAウイルスであり、消毒剤への抵抗性が強い。Adの消毒には、塩素消毒が有効である。次亜塩素酸ナトリウムは、塩素系消毒剤として推奨できるが、塩素ガスによる粘膜刺激性、金属腐食性などがあるため、手や眼および金属性器具の消毒剤としては使用が困難である。しかし、汚染されたタオルや汚物等の消毒には、消毒効果が強力なため、有用である。器具等で材質的に耐えられるものは、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬するか、オートクレーブ滅菌する。

器具等の消毒には、ホルムアルデヒド、グルタールアルデヒド、フェノールなどの変性剤が有効である。56℃30分の加熱が有効である。

予防法
Adを皮膚や環境表面から除去することは困難であるので、患者やウイルスが付着した物品等に触れた可能性がある場合、頻回の手指の衛生対策が重要である。患者に接触する場合は、手袋、マスク、眼鏡等により感染を防御する。手袋は、ディスポーザブル手袋を用いる。

眼科において、Ad感染時の眼脂および涙液には大量のウイルスが含まれるため、タオルやドアノブ等を介したEKC の感染拡大に注意が必要である。咽頭結膜熱(Pharyngoconjunctival fever:PCF)等、他のAd感染症でも同様の注意が必要である。

Adは眼、鼻・咽頭粘膜にウイルスを含んだ水が接触することで感染することがあり、そのためAdの代表的な疾患であるPCFはプール熱と呼称されることがある。プール水は遊離残留塩素濃度が0.4mg/l以上、1.0mg/l以下となるように消毒を行うことと規定されている。

実験室においては多量のウイルスを扱うので、手袋、眼鏡、マスクの装着および安全キャビネット内においてウイルスを取り扱う。安全キャビネットは、アルコール等による清掃および紫外線照射により消毒する。安全キャビネット内に不要な物を置かず、紫外線を十分に照射する。

アデノウイルス感染症の治療法
Ad感染症に対する抗ウイルス剤は今のところ実用化されたものがない。そのため、治療は対症療法である。

国立感染症研究所感染症情報センター 藤本嗣人 安井良則 森兼啓太

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