サポウイルスGIVによる感染性胃腸炎の地域流行―熊本県

(Vol. 29 p. 46-48: 2008年2月号)

2007年9月〜12月にかけて、熊本県で10市町に及ぶ前例のない規模のサポウイルスgenogroup (G) IVによる感染性胃腸炎の地域流行が発生したので概要を報告する。

熊本県では、2002年度からサポウイルスをはじめとするノロウイルス以外の下痢症ウイルス検査に本格的にPCR法を導入し、multiplex PCR法1)を構築して検査を行ってきた。この方法は大変有用であったが、サポウイルス検出用のVinjeら2)によるポリメラーゼ領域のプライマーは若干設計が古いため、昨年度末にOkaら3)とOkadaら4)が報告した構造蛋白領域のプライマーを用いて2002年度からの陰性検体を再検査した結果、新たに9検体が追加され、417検体中30検体が陽性となった。そこで、本年度から同法も併用し、PCR条件を統一して検査を行っている。2007年度は12月24日までに210検体中144検体(68.6%)から原因物質が検出された(表1)。

サポウイルスの検出数は、9月までは9月14日に搬入された1検体のみであったが、10月に11検体、11月に29検体、12月に9検体(24日現在)で合計50検体となり、この中にはエンテロウイルスとの混合感染が1検体、A群ロタウイルスとの混合感染が1検体、ノロウイルスGIIとの混合感染が2検体含まれていた(表1図1)。

患者の多かった地域は検査定点のある宇土市と上天草市であったが、菊池市や八代市でも患者が確認され、流行地域は10市町に及んだ。本県では過去にこのような多数のサポウイルス性胃腸炎が発生したことがなく、2002年度〜2006年度までの検出例が30検体であったことから判断すると、今回はかなり大きな地域流行であったと思われる。

患者の年齢は10カ月児〜子供から感染したという44歳の母親まで広範囲であったが、中央値は5歳で大半は幼児であり、性別は男女ほぼ半々で有意差は認められなかった。

今回流行したサポウイルスの遺伝子解析はまだできていないが、すべての株がVinjeらのプライマーでは検出されず、OkaらとOkadaらのプライマーのみで検出されGIVに群別された。2002年度以降、熊本県では、GI、GII、GVは検出されていた。しかし、GIVの検出例はなく、今回が初めてであった。なお、熊本市の検査を担当する熊本市環境総合研究所でも9月3日の発症事例を発端に6例のサポウイルスGIVが検出されていることから推定すると、今回の流行は熊本市から始まり、次第に周辺部に広がったような形跡がうかがえる。

サポウイルスは乳幼児散発性下痢症の起因ウイルスとして知られてはいるが、まだ調査が不十分で、感染経路など不明な点も多い。近年集団発生事例等の報告も増加しており、さらに今回のような地域流行を起こすこともあることから、今後もその発生動向に注意が必要である。

 参考文献
1)原田誠也ら, 熊本県保環研所報, 33:25-30, 2006
2)Vinje J et al ., J Clin Microbiol 38: 530-536, 2000
3)Oka T et al ., J Med Virol 78: 1347-1353, 2006
4)Okada M et al ., Archi Virol 151: 2503-2519, 2006

熊本県保健環境科学研究所微生物科学部
原田誠也 八尋俊輔 松尾 繁 宮坂次郎 中島龍一
しまだ小児科医院 島田 康
上野小児科医院 上野剛彦
いけざわこどもクリニック 池澤 滋

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